“Writing Box” by Milorad Pavic (87)
“Writing Box” by Milorad Pavic (87)
https://jp1lib.org/book/16698678/7e0b66
私は絶望に沈んでいたので、船長でもないのに、船長の筆箱だけを持ってギリシャの遠洋定期船に乗り込んだ。
その筆箱の中には私の偉大な恋人が持っていたちょっとしたアクセサリーが入っていた。
出発の時、私はかつてフランスでつけていた日記と、私が愛した人と子供の写真と、彼女と私の記憶に関連する、やっとの思いで集めたそれ以外のものを、旅行に一緒に持っていくために箱に入れている。
暗い気持ちでいると、ある考えが私を慰めてくれるのだ。:
「子孫の一つの幸せな愛は、祖先の9つの不幸な愛を償うことができる。」
後書き
筆箱の買い手である私は、もう一度その売り手に会った。
それはコトルで、今年の冬だった。
南の風が吹き始め、夜よりも夕暮れが長くなり、雨のために夕食後は外に出ることはできなかった。
私は音楽が聞こえてきた時、玄関ホールに座っていた。
誰かが「明日への動きの静かなシャツの中で......]という歌のテープをかけていたのだ。
私は筆箱の中では、その同じメロディーが、南風が吹くことを告げる事を意味することを思い出した。
歌に引き寄せられて立ち上がり、半円形のバーに座った。
私の目の前にブドヴァからきたウエイターがいた。
彼の顔は銀色で無表情だった。
彼は今ここで働いているのだった。
「おはよう、スタブラ、私を覚えているか?
ワインをギリシャ人のやり方で私に混ぜてくれないか?
注ぐときにグラスに空気を入れないように、用心してね。」
スタブラは冗談が分かった様で言った:
「こんばんは、Mさん。いらっしゃいませ!