「シュレディンガーの赤ん坊」チャーリー・フィッシュ(4)
「シュレディンガーの赤ん坊」チャーリー・フィッシュ(4)
https://www.eastoftheweb.com/short-stories/UBooks/SchrBaby922.shtm
<4>
「彼女は元気です。」
「彼女は元気ですって、殿方はそういうのね。殿方は何時もそんな事柄についてはっきりとおっしゃるわね。私の夫も ― 」
「ルクレール夫人、お願いがあるんですが。」
「ああ、わたしに親としての助言を求めているのね?
そうね、あなたは正に良い所にやって来たわね。
エレーンがどんなにお行儀よいかを見ればわかるでしょ ― 。」
「あなたは私たちのスペアキーを持っていますよね?」
「持っているわよ。
あなたが私たちにその責任をもって与えてくれたので私たちはその責任を真剣に受け取っていますよ。
食器用のナイフやフォークの入っている引き出しの後ろの宝石箱の中にあるわ。」
「それを持ってきていただけませんでしょうか?
それとも、私が取りに伺いましょうか?」
「私はブライトンにいるのよ、あなた。保守党の会議よ。
家に帰るには少なくとも1時間はかかるでしょう、それにセバスチャンは仕事で出ているの、モナコに。 緊急事態なの?」
私は歯を食いしばった。
「あなた?」と、彼女は私の言葉を促した。
「いいえ、お騒がせしてすみませんでした。」
私は電話を切った。
モーは私がカウンターに置いたコチコチとなっている赤ちゃん用のインターホン受話器をちらっと見て、私を横目で見て、にやりと笑った。
「ちょっと困っているんですよね、でしょう?」
私は私の血管にパニックが毒物のように広がって行くのを感じることができた。
私は大声を上げ、暴言を吐きたかった。
その代わり、私は眼を閉じて、深く息を吸い込んだ。
私の両手は自制しようとする努力で震えていた。
「モー、緊急用の鍵屋の電話番号を知っているか?」
モーは肩をすくめた。
「電話番号案内に電話するよ。」と、私は電話を持ち上げた。
「もし君が良ければ?」
モーはしょうがない、という仕草をした。
彼の両唇は笑いをこらえるかのように硬く閉まっていた。
私は2つの鍵屋の番号を手に入れて、より近い方の鍵屋に電話した。
「もしもし、」、私は几帳面な発音をする男が電話に出た時に言った。
「私は私のアパートに鍵を閉じ込めてしまったので、誰か来て私を中に入れてほしいんだ。緊急事態なんだ。」