令和の物々交換と、「コフィノワ」のエチオピアGedeb・Shakiso(蔵前)
その週、わたしはとんでもなく追われ、落ちていた。
いったい何に追われ、落ちていたのか思い当たる節がありすぎてもはや思い出せないが、いろんなことが一気にやってきていた。とにかく感情がせわしなかったことだけは覚えている。
大人げないが、そんな落ちてる自分をさらけ出させてくれて、受け止めてくれる仲間がいる。
学生時代の3人で組まれたグループLINE。ちょいちょい連絡はとっているが、数日ぶりの連絡でいきなり届いたのがこれ。
「住所教えてくれない?」
普段なら一瞬戸惑うだろうが、ただあまりにもバタバタしていて、深く考えることもなく自宅の住所を送った。書きながら思い出したけど、原因のひとつは決算期にあった。もう一人も同じく決算期、そして家族の誕生を迎えていて、わたし以上にバタバタしていた。2人とも、ほぼ反射的に住所を送っていた。
数日後、わたしのひとつのヤマが過ぎた。気絶するように眠り続けた土曜の朝、玄関のチャイムが鳴って起きた。
モニョモニョしながら小包を受け取り携帯を見ると、すでにグループLINEが盛り上がっていた。彼女がプレゼントを送ってくれたらしい。なんて粋なんだろう。
「ちょうどいいサイズの箱がないから作った」とは聞いていたが、想像以上のクオリティだ。
箱がないから買うのではなくて作るという発想も、作っちゃえるのも彼女らしい。そして学生時代と変わらない彼女の手描き文字。通称「くるみフォント」。癒しだ。
中身はなんと、自家製グレープフルーツピールと、それを使ったブラウニー。
届いてから感動の連続だったけど、いちばんのビックリがこれ。
何も予告せず、サラッと入れてきたのが彼女らしい。一瞬「え?」って思ったけど、少し考えたらその正体がわかった。
わたしが父島のコーヒー農園で撮った写真だ。これを彼らに送っていたことを思い出した。
わたしが送った数枚の写真からあのお花をつくってくれたらしい。彼女から、見えないバトンを受け取った気がした。
もう、いても立ってもいられなくなり、近所の行きつけのコフィノワ(蔵前)で最近ハマってるコーヒー豆を買って彼らに送った。
最近めちゃくちゃ混んでるけど、ここの豆をほぼ切らしたことがないくらい飲み続けている。それくらい美味しい。
ホントはケニアのほうがピールと合いそうだけど、あえてのエチオピア縛りにした。そんなこと、なかなか自分ではやらないと思うから。
エチオピアGedebとshakiso。どちらもシングルオリジン。フルーティでワインみたくて、ふわっとお花が咲く感じ。特にコフィノワの豆はそれをすごく感じる。クリアな味だからアイスでキリッとさせるのもいいし、ホットでも美味しい。もちろん冷めてもいい。
おやつとの相性も考えたけど、上品なふたりにぜひ試してもらいたいのがこのお店のエチオピアだった。
彼女のピール、そしてブラウニー。ブラウニーは彼女の職場の人にも手伝ってもらった「加工貿易」の産物らしい。そして彼女史上、最大の贈り物をいただいてしまった。
しっかりと苦味を感じるピールはそのままでいくらでもいけた。グレープフルーツのピールは初めてだ。
しっとりとしたブラウニーは甘さ加減が絶妙で、ナッツの食感とピールの苦味がアクセントになる。どちらも大切に、コーヒーをいつもより丁寧に淹れて、少しずついただいた。
友人宅にもわたしのコーヒーが届いたらしい。
そこから、リモートお茶会がはじまった。リレーのように贈り物をして、それぞれの家で味わう。
おいしいね、こういうのいいね、って言いながらLINEするのは新鮮だった。
彼女いわく「ふたりをギャフンと言わせてやりたかった」そうだ。ふたりでギャフンギャフン言ってやった。こんな時代だけど、こんな時代だからこそできたこと。それだけは間違いない。
その気持ちが最高に嬉しかった。令和の時代に物々交換ができる仲間がいることが、疲れきっていたわたしへの特効薬になっていたようだ。
いつのまにか、疲れが吹っ飛んでいた。コーヒーがいつもより美味しく感じたのは、きっと豆のおかげだけではないはずだ。
最高のコーヒー時間。
またみんなに会いたいな。
コフィノワ(蔵前)