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ベクトルが得意になるには その1 231103
ベクトルのよさは、点の位置関係を相対的に表現できることにあります。
表現という語を好んで使います。表現というと、学校では国語や英語、芸術、体育といった教科が得意とするところだと感じている人が多いと思います。数学はそれらと同じか、むしろそれ以上に表現力に富んだ教科です。それに気づかない人には、結果的に数学が不得意な人が多いなと感じています。現象を数式で表現できるから形式処理ができるのです。数学は、どうやったら現象を記述できるか、と表現方法を生み出してきました。
位置関係の表現には、
3点が同一直線上にあること
4点が同一平面上にあること
2直線のなす角(内積)
などが挙げられます。これらの中に現れる値を図形の中で理解することも大切です。
具体的に問題を解く中で説明していきます。
四面体OABCの
辺ABを4:5に内分する点をD、
辺OCを2:1に内分する点をEとし、
線分DEの中点をP、
直線OPが平面ABCと交わる点をQとする。
問題文は、まるで登場人物を説明するかのように、図形の点の位置関係を設定しています。図形の構造を設定しているともいえます。
簡単のために、$${\overrightarrow{\rm OA}=\vec{a}}$$, $${\overrightarrow{\rm OB}=\vec{b}}$$, $${\overrightarrow{\rm OC}=\vec{c}}$$ と書くことにします。点の位置ベクトルの基点をOとするよ、という宣言でもあります。例えば、$${\overrightarrow{\rm OA}}$$はOを基点としたAの位置ベクトルです。位置ベクトルとはデカルトの幾何学の座標の拡張のようなもので、点の位置を共通の始点からの有向線分で表現しているものです。空間ですので、座標で表せばA$${(a_1,a_2,a_3)}$$のように1つの点で3つの実数が必要なものを単に$${\vec{a}}$$としてしまえるのは、思考をスムーズにするよさがあります。しかも、この問題では座標で表したときの3つの実数で表すメリットを見出すことはできないでしょう。
A, B, D は一直線上にあります。詳しくは、設定により、$${\overrightarrow{\rm AD}=\dfrac{4}{9}\overrightarrow{\rm AB}}$$ と表現することができます。ベクトルのよさの一つです。
O, C, E は一直線上にあります。$${\overrightarrow{\rm OE}=\dfrac{2}{3}\overrightarrow{\rm OC}}$$
D, E, P は一直線上にあります。$${\overrightarrow{\rm DP}=\dfrac{1}{2}\overrightarrow{\rm DE}}$$
$${\overrightarrow{\rm AD}=\overrightarrow{\rm OD}-\overrightarrow{\rm OA}}$$, $${\overrightarrow{\rm AB}=\overrightarrow{\rm OB}-\overrightarrow{\rm OA}}$$, $${\overrightarrow{\rm DP}=\overrightarrow{\rm OP}-\overrightarrow{\rm OD}}$$などが成り立ちますから、D, E, P の位置ベクトルはちょっとした計算でそれぞれ、
$${\overrightarrow{\rm OD}=\dfrac{5\vec{a}+4\vec{b}}{9}}$$, $${\overrightarrow{\rm OE}=\dfrac{2}{3}\vec{c}}$$,
$${\overrightarrow{\rm OP}=\dfrac{\overrightarrow{\rm OD}+\overrightarrow{\rm OE}}{2}=\dfrac{5\vec{a}+4\vec{b}+6\vec{c}}{18}}$$です。
$${\overrightarrow{\rm AP}=k\overrightarrow{\rm AB}}$$ は 同値変形で $${\overrightarrow{\rm OP}=(1-k)\overrightarrow{\rm OA}+k\overrightarrow{\rm OB}}$$ と位置ベクトルの関係式で表すことができます。よく使うので、公式としておくのが一般的です。
このように形式処理(=計算)できるのは、ベクトルのよさです。このベクトルのもつ性質は、ちゃんと構築され説明できることがらだということは、数学の魅力の一つだと思います。
さて、Qについて
O, P, Q が一直線上にあるので、$${\overrightarrow{\rm OQ}=k\overrightarrow{\rm OP}}$$ なる実数$${k}$$ が存在します。
また、A, B, C, Q は同一平面上にあるので、$${\overrightarrow{\rm CQ}=s\overrightarrow{\rm CA}+t\overrightarrow{\rm CB}}$$ なる$${s}$$, $${t}$$
すなわち、$${\overrightarrow{\rm OQ}=s\vec{a}+t\vec{b}+u\vec{c}}$$ かつ $${s+t+u=1}$$なる3つの実数$${s}$$, $${t}$$, $${u}$$があります。(後者は公式として使われることがあります。)
$${\overrightarrow{\rm OQ}}$$は 3つのベクトル$${\vec{a}}$$, $${\vec{b}}$$, $${\vec{c}}$$を使って2通りで表せました。この3つのベクトルのうちどれもほかの2つのベクトルの線型和(実数倍の和)で表すことはできません。このようにして、実数$${k}$$, $${s}$$, $${t}$$, $${u}$$を決めることができます。
$${\overrightarrow{\rm OQ}=\dfrac{6}{5}\overrightarrow{\rm OP}}$$となり、これは点Qは線分OPを6:1に外分している点であることを意味しています。
次に、2つの三角形ABQ, ABC の面積比を求めてみましょう。
いま、$${(s, t, u)=\left(\dfrac{5}{15},\dfrac{4}{15},\dfrac{6}{15}\right)}$$ でした。$${\overrightarrow{\rm CQ}=\dfrac{5\overrightarrow{\rm CA}+4\overrightarrow{\rm CB}}{15}}$$
ABを4:5に内分する点をRとすると、QはCRを3:2に内分する点です。
したがって、三角形ABQの面積は三角形ABCの面積の$${\dfrac{2}{5}}$$だということがわかります。