「永い言い訳」とあの子の父親
父親に罵声を浴びせられるらしい。お前は人間のクズだ。俺がお前の歳の時は一人暮らしで生計立ててたんだ。なのにお前は遊んでばっかで。
すぐ物に当たるらしい。家の中はグチャグチャ。
彼女はまだ大学生。大学でしっかり学んでもいる。バイトもしている。遊んでいるというのは、正確には趣味のことだろう。
一度何か見つけると、次々と粗が浮き出てくるようで。何もかも嫌に見えてくる。
「永い言い訳」に出てくる一文、「自分のクズの遺伝子を残したくないから子供は作らない。」。自分の子供には自分と同じ遺伝子が流れている。自分の一部同然。自分と同じだから生き方も自分と同じはず。
彼女の父親は悲しいのかもしれない。自分は高校を出たら一人で自立。娘は大学で勉強中。自分と趣味も違う。生活の豊かさも違う。自分は娘と全然違う。自分の一部のはずのに。
ほんとに自分の血が流れているのだろうか、そう思ってしまうのかもしれない。
「子育てって免罪符でしょ。男にとって。だって帳消しにされるんですもん。自分がクズだって。」。これも「永い言い訳」のセリフ。その父親にとってもそうだったのかもしれない。彼がクズだと言っているんじゃない。子育ては自分に優越感を与えてくれる。俺が養って、俺が教育して、俺が育てたんだ。俺のおかげ。そう思うのだろう。きっと。それと同時に、ここまで自分はずっと見守ってきたから、ここで子供がダメになってしまったら自分の責任。どんな手を使っても子供を正さなければ。
それは子供のためか、それとも自分の体裁のためなのか。
彼女の話を聞いて、彼女のことを心配になると同時に、父親になることの苦しさ、他人への愛と自分への愛の狭間を知った。
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