ただ電車に乗っていただけ
午後二時、京王線線上り各駅停車、6号車左から4つ目のドア、一番端の席。私は『堕落論』を開く。顔を下に向け本を読むのは首が痛く疲れる。分倍河原でドアが開くと五、六十歳あたりの男性が私の隣に腰をかける。この時間帯でもこんなに込むものなのだな、と田舎町のような余裕の持った乗車は夢のまた夢だと思い知らされる。男性の着ている上着は元はもっと彩度の高い緑であったのだろうが今はもうしらっちゃけている。無造作に広がった髪を掻きながらタバコの匂いを隣で撒き散らしているのは、正直不快に思ってし