[本]とにもかくにもこのままでいるのが彼らの最大の望みだということだ 「百年泥 石井遊佳(著)」
芥川賞を受賞した石井遊佳さんの作品「百年泥」を読んだ。個人的に芥川賞は短くて読みやすい、そういった作品は「読書!!!」と気合を入れなくていいところがいい。
まったく予備知識もなく読んだものだからどこまでもフワフワフワフワした感じで読了してしまった。純粋な読み物として物語の世界に迷子になる感覚が嫌いな人はあまり好きではないと思う。
百年泥(ひゃくねんどろ)の中から出てくるたくさんの人々の思い出やエピソード。掘り起こされていくつぎはぎのエピソードは自分の人生がいろいろなものと混ざり合い、一つの形を成していることを象徴するかのような表現でつづられている。
物語の主軸とは何も関係もないがある男の子が母親の火葬のお金がなく物乞いをするシーン。たまたまあった日本人と奇跡的な共通点があり会話をする
「お金がないと母を川に流さなければならない、火葬するお金がないので母親の魂を送り出すことが出来ない。一生かかっても返すのでお金を貸してくれないか。」
と日本人に話しかける。
「貸さない」
と日本人は答える
「貸したりすると僕は君の事を恨むことになる。お金はあげるよ。自分の母親を若くしてなくしていて、だからね。」「供養になるとおもう。供養(くよう)と日本語で言うんだ」
かなりうろ覚えな上にテキストにすると何じゃこらとなるけどかなりぐっと来た。しっかりと相手と向き合い自分の感情を言葉にしている表現だった。
本というものは何か一つでも自分の中の感情が動けばいい。この小説は沸き起こる感情を書いている、喜怒哀楽ではない感情を文章で昇華している。
まさしく文学的作品だ。
ちなみに題名文章はインドでの考え方らしい。来世でも前世でも親の子供に生まれ変わりたい。来世を信じる子供たちが今のままの状態が一番という考え方はステキだなと思った。