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『青空と逃げる』辻村深月 書評#11

旦那さんが、生きて、逃げてるってことならよかったよ。

今回は、辻村深月さんの小説『青空と逃げる』を紹介します。

あらすじ

主人公の本条早苗は、元舞台女優の主婦で、ひとり息子の力と2人で暮らしています。といってもシングルマザーではなく、夫は劇団で出会った先輩俳優・本条拳です。主人公とは違って俳優業を続けていた夫は、舞台で共演予定だった有名女優が事故を起こした自動車に同乗しており、相手事務所に追われていました。早苗と力にも事務所からの圧力がかかるため、2人は東京の自宅を離れてゆかりのない地逃げている途中です。
2人が逃げる先で出会った人々との関わりを通して新たな思いを抱き、夫また父が何をしたのかを探っていく物語です。

見どころ

主人公が逃げる先として選んだ地は四万十や別府などの聞き覚えのある場所で、そうでなくても自然豊かな場所でした。そのため各地の風景や生活の様子が登場して、とても魅力的でした。特に主人公の早苗が温泉地で“砂かけさん”として働く描写には、とても惹きつけられました。砂かけとは、温泉の近くで温まった砂を横たわった状態でかけてもらう、土の中のサウナのような体験です。砂を持ち上げて優しくかけていくのは重労働な仕事のようでした。砂かけの他にもいろいろな土地での生活が登場して、飽きずに読み進めることができます。

感じたこと

風光明媚な土地での一時的な生活が描かれるため、まるで自分も主人公たちと一緒に旅行しているかのような感覚が味わえます。作中に出てきた場所に行ってみたいなと強く感じました。
それとともに、家族の関係についても考える機会になる作品です。主人公とその息子である力が日常を奪われたことに感情移入し、ハラハラしながら読み進めました。すると、日常を奪われたのは主人公たちだけでなく事故を起こした有名女優の家族も同じだったと気付かされます。自分の行動は家族にも影響すること、立場が変われば見方も変わることが改めて分かりました。

まとめ

どこに逃げても青空は変わらず光っていてくれる、そんな明るさの残る作品でした。

※ヘッダーはたかはしあさぎ_役者ポートレートさんからお借りしました


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