数分でできる読書の下準備【時間にまつわる話】
数分でできる読書の下準備シリーズは、昔高校生向けに作成した読解力を高めるための素材集めとして作成した文章集をもとにしたものです。現代の評論文を読むために知っておくと読みやすくなる知識を簡単にまとめたものなので、新書や選書などの硬派な文章は苦手という人は少し硬い文章に慣れる練習として読んでもらえたらと思います。知識を試す「現代文キーワード小テスト」というシリーズもあるので、よりたくさん下準備したいという方はそちらもご覧ください。
[時間にまつわる話]
時間についての議論では円環する時間と、不可逆的な時間の二つがあるというものが定番であり、例えば東大の一九九五年の問題で見られる重要な視点である。とはいえ、定番の時間論を展開してもあまり意味がないので、少し異なった視点で時間について話をしてみる。
イヌやネコの年齢について、人間の年齢で換算すると何歳という話があると思う。これについてどのような考えを持っただろうか。イヌの寿命はヒトよりも短くてかわいそうとか、カメの寿命はヒトよりも長くていいなとか、それに類することを思ったのではないだろうか。この考えは物理的な時間という概念を持つからこそ生じる感覚であることを忘れてはいけない。物理的な時間で考えればヒトの寿命は八十歳前後であるが、意識的な時間では必ずしも等価に八十年を経験するわけではない。もちろん、人生の有り様によって差はあるだろうが、一般に0歳~二十歳と、二十一歳から八十歳までの意識としての時間は同じであるという話がある。様々な要因は考えられるが、新しいものに触れなくなることで出来事に対する意識としての時間が短くなるということがあるだろう。実際、就業すれば同じ行為を繰り返す機会は明らかに増加し、家庭を持てば安定感が増す分、一層繰り返すという感覚が増すであろう。ヒトですら意識としての時間を大切にして生きているのだから、物理的な時間を取り立てて実感していない生物の場合はどうだろうか。かわいそうという感覚も、いいなという感覚も所詮はヒトが物理的な時間を意識した故に出る発言であり、意識としての時間を念頭に置けばあまり有意義な発言ではないことがわかる。生物の時間はその個体の大きさに比例すると言われているが、例外も多い。生物学的な見地ではないが、そのような話を聞くと生物の寿命という物理的な時間はその生物の意識としての時間にとって最適な量で分配されているのかもしれない。そう考えると、八十年という寿命は物理的には短いと感じても、全力で楽しめば意識としての時間にはちょうど良い時間なのだろう。ならば、約八十年という有限な時間を自身にとって満足のいくように過ごすことが楽しい人生の過ごし方なのかもしれない。
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