数分でできる読書の下準備 #1
数分でできる読書の下準備シリーズは、昔高校生向けに作成した読解力を高めるための素材集めとして作成した文章集をもとにしたものです。現代の評論文を読むために知っておくと読みやすくなる知識を簡単にまとめたものなので、新書や選書などの硬派な文章は苦手という人は少し硬い文章に慣れる練習として読んでもらえたらと思います。
[環境問題]
そもそもの問題として「環境」とは何か。「環境」は『日本国語大辞典』によれば「まわりの外界。まわりをとり囲んでいる事物。特に人間や生物をとりまき、それとある関係を持って、直後、間接の影響を与える外界」という意味である。つまり、単純化すれば「環境問題」という言葉から想定するような自然のみが環境の定義するものではないことが分かる。要はタイトルが環境ではなく環境問題であるということは重要な意味があるわけだ。
「環境問題」という言葉は案外辞書類で記載されていないものであるが、旺文社の『世界史事典』には「地球環境問題」で記載されており、「環境問題」の類義語として紹介されている。そこでは「地球規模の環境問題」、「国境を越える環境問題」、「開発途上国の公害問題」の三つに大別できることも記載されている。そしてこれら三つの問題の根幹には十九世紀末から始まり第二次世界大戦後に本格化する大量消費生活と、国際的な相互依存を特徴とする現在の世界経済の枠組みが存在する。つまり、環境問題は自然を加工し生産する問題のようにとらわれがちだが、実際は消費したいという願望の問題であるという点が重要である。環境問題に対応するということは消費を抑制することも含んでいる。消費の抑制は強制を伴うものであり、環境問題を完全に解決することの難しさの原因となっている。要は、環境のためという理由で願望を否定することは難しいということである。一見、地球環境のためなら当然のことのように思えてしまうが、例えば文化として、あるものを消費するという習慣が根付いている国や地域にいきなりその習慣を止めろと言うのは横暴に近い。また、産業構造を高度化するために消費と生産を行ないたいと考えても環境のためにそれを認めないということになる。そして両者において、そのような消費を望む国や地域は環境問題の原因を生み出してこなかった側であり、抑制を強要する国や地域が過去において環境問題の原因を生み出してきた側であることが多い。つまり、原因を生み出した側に否定をされるのだから、消費したい側から考えれば納得できないのは理解できる。そのような複雑な状況があるからこそ環境問題は解決が難しいのである。
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