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金融リテラシーを身につけることは"不安スイッチ"を押されても動じない自分になること(+1月上旬の日記)
先日、あるWEBメディアのインタビュー記事を読んでいたら、お金を意識するきっかけとして、"老後2000万円問題"というキーワードがでてきました。
・金融庁から「老後は2,000万円なければ余裕のある生活が苦しい」というような発表があったときですね。
・老後を30年間と想定すると、約2,000万円を預貯金から取り崩さなければ、生活が維持できない!という危機感が一気に広まった
そう、そう、ありましたよね、「老後2000万円問題」。ん???
いまだに「2000万円問題」といわれるが、そんな問題はない!
この(老後)2000万円問題、2019年6月に金融審議会 市場ワーキング・グループの報告書の一部が切り取られて独り歩きし「老後に2000万円必要」といった誤ったメッセージが伝えられて大騒ぎになったものです。
委員のひとりだった私のところにも、連日、メディアから電話やメールが殺到しました(苦笑)。話題になってから5年以上経ちますが、いまだにあちらこちらで散見され、「だから、投資しよう」といった文脈で使われることも多く、困惑してしまいます。
ところで、皆さんは、この報告書の正式名称をご存じでしょうか。
正式名称は「高齢社会における資産形成・管理」。中身は長寿社会を見据え、将来に備えた資産形成の大切さと、高齢期における資産管理の課題についてまとめたものです。
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)
2.基本的な視点及び考え方
3.考えられる対応
おわりに
この報告書は「1.現状整理」「2.基本的な視点及び考え方」、「3.考えられる対応」の3つのパートから成ります。最初の現状整理の部分で様々なデータが記載されていて、そのひとつに総務省統計局「家計調査報告・家計収支編」の高齢者夫婦無職世帯の家計収支(2017年)のデータが載っていました。そこの部分だけが切り出されて報道されたわけです。
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実際には、12回にわたってワーキング・グループで議論されてきたこと、つまり本題については「2.基本的な視点及び考え方」と「3.考えられる対応」にまとめられています。今もホームページで閲覧できますので、関心がある方はご覧ください。
まとめでは、以下のように書かれています。
標準的なモデルが空洞化しつつある以上、唯一の正解は存在せず、各人の置かれた状況やライフプランによって、取るべき行動は変わってくる。今後のライフプラン・マネープランを、遠い未来の話ではなく今現在において必要なことを、”自分ごと”として捉え、考えられるかが重要であり、これは早ければ早いほど望ましい…
・唯一の正解は存在しない
・自分ごととして捉え、考えられるかが重要
報告書で書かれたメッセージは、世間で騒がれた「2000万円貯めろ」とは、実は真逆のものでした。
世の中は"不安"スイッチであふれている
「資産寿命が尽きる」「老後には〇円必要」など、世の中は不安スイッチを押す人たちで溢れています。金融リテラシーを身につける意味は不安スイッチを押されても動じない自分になることなのだと思います。
不安を感じる最大の理由は「わからない」「知らない」ということ。過度に不安になるのではなく、お金に関する必要な知識を身につけること、「一般論」「平均値」に惑わされず「自分の場合は?」と問うこと、そして、数値化して検証することです。
そのためには➀公的保障と企業内保障の見える化(資産形成の場合、公的年金保険や勤務先の退職給付の見える化)や②家計の見える化(バランスシートや年間収支の作成など)が本当に大事です。
こうしたことを理解&実践していれば、"2000万円問題"などと騒ぐメディアやSNSの情報を鵜呑みにしなくてすんだはずです。
【ねんきんネット】将来の年金額の試算:今後の年収や就労完了年齢、受給開始年齢(繰上げ・繰下げ)などの条件変更がラクにできるようになり(スライドバーによる変更)、使い勝手がよくなった。平均やモデルケースではなく、「自分の場合は?」を確認してみよう。 https://t.co/8LNj3Uw54s
— 竹川美奈子 (@minakotakekawa) January 10, 2025
ファイナンシャル・プランナー(CFP)の伊藤俊輔さんは、義務教育において「金融教育」よりも圧倒的に優先して「社会保障教育」を実施してほしい、と指摘しています。
ちょうど田内学さんが「不安のインフレを抑えるために」という記事をかかれていました。
HowではなくWhy
そもそも、金融教育とは何でしょうか。金融広報中央委員会(2024年からJ-FLEC=金融経済教育推進機構に統合)では次のように定義されていました。
「お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会の在り方について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に判断し行動できる態度を養う教育である」
このように、もともとは広い範囲をカバーするものですが、最近は「いかに自分のお金をふやすか」といったHow(投資のしかた)に重きを置くコンテンツが多いように感じます。本来は社会保障や税なども含めた、広い意味での金融知識を体系的に獲得することが大切でしょう。
また、単に制度や商品知識を身につけることではなく、正しい判断ができることも必要。元ファンドマネジャーのかわもとゆきこさんのブログです。
「金融教育の目的は、金融行動をとる際に正しい判断ができること」
「資産運用の際、金融商品を見究めるために必要なのは、その収益とリスクがどこから生じているのか、見抜く能力です。そのためには、金融商品の素材である債券や株式がどういうものか、そして経済や金利がどのようにそれらの価格を動かすのか、分かることが必要です」
主体的に考え・行動する
ありたい姿を模索し、未来に向けて、自分・社会のために主体的に考え・行動することが人生であり、その土台を担うのが金融教育なのではないでしょうか。そのためには"自分なりの軸"や"モノサシ"を持つことが必要でしょう。
投資について学ぶ際にも、いきなりHow(投資のし方)ではなく、会社は何のためにあるのか、株式を持つ意味、社会全体で投資が果たすべき役割といった本質的な話から入る必要性を感じます。そこが腹落ちすると、投資の先にある社会に目を向けなくてはならない理由(つながり)もみえてくるはずです。
年末に、FBをみていたら、12年前(2012年12月)の過去記事がでてきました。某大学の金融リテラシーの授業にゲストで呼んでいただいたときのものです。
先日、〇〇大学理工学部の「金融リテラシー」の授業で行った講演の感想文が届きました。岡本和久さんご紹介のピギーバンクの話なども冒頭に盛り込みつつ、資産形成入門のお話をしました。正直、講義中は静かだったので、「どこまで伝わっているのかしら?」 とビクビクしていましたが、皆さん、びっしり感想を書いてくださっていて、ホっとしました。なかには、資料にはない、私の当日の話や数値を書き留めている方もいて、感激しました。
その中に以下の感想がありました。
『この講義に、端的に言ってしまえば、「どうやったらお金を増やせるか」という観点からでしか臨んでいなかった。しかし、竹川さんがおっしゃっていた「消費者が変わらなければ日本の金融商品が変わらない」ということに、金融リテラシーを学ぶことに確かな意味と動機があるということを見出すことができた。
特に講演の最後と質問時におっしゃっていた「自分の投資したお金の動きと役割を考えることが大切である」というメッセージは自分にとっては目から鱗であった。(省略)
投資のやり方によっては情熱をもって会社を設立したベンチャー企業を自分のお金で支援して、育てることができるかもしれない。そう考えると、投資はとても夢のあることだと感じた』
短期売買も否定しませんが、お金の使い途、投資ということについて関心を持ってくれた人がいたのはとても嬉しかったです。
改めて当時の資料を見返してみました。いまのほうがセミナーの資料は綺麗で、まとまっている気がします。でも、当時のほうが、粗削りだけれど、言いたいことをストレートに言っていた気もします。
何を、どう伝えていくのか。まだまだ悩むことも多いけれど、今年も、一歩ずつ進んでいれば、と思います。よろしくお願いします。
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日記&日々の雑感(1月1日~10日)
昨年は悲しいお別れも多かったけれど、生きてるうちはちゃんと生きないと。未来の自分や社会のために、目の前のこと、できることを一歩ずつ。
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