届かなかった物語
気づいた時には本が好きだった私の頭の中で、空想の人物たちが動き出し、それを文章として紡ぎ出したのは、ある意味当然のことだったかもしれない。
初めて物語を書いたのは10歳の時。夢は当然小説家だった。でも、結局は書くのをやめた。
物語を書かなくなった、いや、書けなくなったのは10代も終わりの頃。オブラートに包まずに言えば、セックスを知ったせいのように思う。
子孫繁栄のために我々は生きて、恋をして、体温を交換し合うと思うと、それまでの価値観はガラガラと崩れていった。私が頭の中をこねくり回して思考するより、世の中はもっと単純であると、知ってしまったのだ。
未完のまま、物語は本棚の隅に乱暴に突っ込まれていたが、それも随分前に前処分した。
誰にも届かなかった物語。
それで良かった。良いはずだった。
でも、心の奥底で、燻っている想いがある。
なにか、文章を書きたい。
それは、空想でなくてもいい。
とにかく、文章が書きたい。
今度は、誰かに、届けられると良い。
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