詩のような短編 ” 風の色 ”【シロクマ文芸部】ピアノ曲付朗読
今回は先日”つるさん”に作って頂いたピアノ曲に合わせて朗読しました。良かったら聴いてみてください✨
風の色をその人にたずねてみると
「金色」
と答えた。
「じゃあ昨日の風は?」
「銀色」
「一昨日の風は?」
「虹色」
「明日の風は?」
「黒」
私は息を飲んだ。
それまでは一つずつ答え合わせをするように、それぞれの日を思い浮かべていた。
昨日は静かな美しい日だった。細かな雨が音もなく降り、町を銀色に染めていた。風は姿を見せぬように建物の間をすべっていた。
一昨日は虹をみた。大きな虹なのに誰も見ないし、虹を見ている私のことも見ない。風が吹いて揺らした私の短い髪にも睫毛にも砂金のような虹をまぶされていた。
金色だという今日は、その人と一緒に風を感じているから私にとってきらきらした金色の時間だ。
「黒…」
つぶやいて私は思案する。
闇、死、夜、うらぎり、絶望…
明日はいったい…少し震える。
「あなたの髪は黒々としていますね。瞳も黒い…」
その人はそういって私の髪をなでた。
「黒いものはたくさんありますよ。みんな生きている」
視線の先に蟻がいた。
黒い蟻がなにか黒い欠片を運んでいる。
「明日は黒い風が吹きます」
もう一度つぶやくと、その人は鴉の姿になり
風に乗って飛んで行ってしまった。
(了)
つるさんに作って頂いた曲です👇
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