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何か装備が足りなくて

みんなが踏みもしない何気ない小さな水たまりなのにどうして私だけ落ちて泣いているの?私は何か装備が足りなくて、多分きれいな長靴なんかが足りなくて、もしかしたらおしゃれな傘も持っていないせいで、すぐに水たまりに落ちてしまう。きれいな水の水たまりならいいけれど、ドロドロの水たまりに落ちると抜け出しても私は泥だらけ。だから水たまりから出ても泣き続ける。
泣きながら、泣きやんだらみんなが持っているような素敵な長靴を買いにいこう、素敵な傘も買いにいこう、素敵なレインコートも買いにいこう、レインコートの中に着る可愛い服も買おう、ぼさぼさの髪も美容院に行ってきれいにしよう、なんて考えて今のみすぼらしい自分に気づいてますます涙がとまらない。
「ばかねえ。いつもばかねえ」
そういいながらカエルが青い長いホースで水をかけてくれる。少しずつ泥が落ちてゆく。
「きれいな長靴なんかいらないから、そのままでいいんだから、転ばないように、水たまりをよけて、しっかり足元を見て歩けばいいのに」
そういいながらカエルが私の顔にまで水をかけてくる。
「やめて」
顔をおおいながら私はカエルに怒ったふりをするけれど、泥を落としてくれてありがとう、と本当は思っている。本当は素敵な傘もレインコートも欲しくないと思っている。だた泥だらけになるのが嫌なのだ。一人だけ泣いているのが嫌なのだ。

そのうちカエルが空に向かって、つまんだホースを向けると虹が出る。
「きみ専用の虹。きみだけの虹」
とカエルが言う。
私だけの虹、私だけの…
泥がとれてただ水にぬれただけの私はもう泣かない。
ぬれたまつ毛にも、もっと小さな私だけの虹。




⁂今日も朗読してみました。
早口っぽいですが書くときの気持ちのスピードがこんな感じです。


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