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紫色のモノ

今日も疲れたな。たいした仕事してないくせにね。体力がないからダメなんだ。あの人はもっと元気にたくさん働ける。あの人はもっと気が利く。
そんなふうに自分をいじめてはいけないよ、と仕事場の壁のアシダカグモが言う。
そうでした。私はクモの忠告を聞いて自分を責めるのをやめる。でも黙って手を動かして仕事をしているといろいろなことを考えてしまうのだ。悲しいことも嫌なことも昔のことも。
そうだ、歌を歌おう。
私は「すみれの風」を口ずさむ。まだ歌詞がないから、ラシレ、ラシレ…と口ずさむ。歌詞をつけるならこれは、す・み・れ、だろうか。
ううん、子守歌がいい。ね・む・れ、だ。
眠れ、眠れ…
だめだ自分が眠くなってしまって続きの歌詞が出てこない。
紫色の夜の空、吹いてくる紫色の風、散らばって光る銀色の星の粒。そんな景色が眠くなった頭か心に広がってゆく。
紫色のモノは菫だけじゃないな、とふいに考える。誕生石のアメジスト、昨日食べた大粒の葡萄。夕暮れから夜への空。他にも花だったらたくさんある。あやめ、藤、紫陽花、ライラック…きりがない。
ねえ続きはどんな歌詞がいいかな?
訊ねようと思ったけれどアシダカグモはもういない。
早く仕事を終わらせてもう眠ろう。

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