短編”月曜日はプリン”【シロクマ文芸部】
「月曜日はプリン…」
私はそうつぶやいて卵を溶く手を止めた。
いつから「月曜日はプリン」になったか思い出す。
きっかけは大学生になったばかりの時。
月曜日の朝一番に大嫌いなとても憂鬱な講義があったから、それを乗り切るためにコンビニで大好きなプリンを買って大学へ向かっていた。
その嫌いな講義は、秋に無事に単位を取り終えたから無くなったけれど、「月曜プリン」の習慣は残った。
そのうち市販のプリンに飽きて、プリンミックスと牛乳で作るようになった。
冷蔵庫で冷やして固める、懐かしい昭和の味のするプリン。
子供の頃、母が作ってくれたプリンを思い出す。一人一つだけ。
一人暮らしで自分で作れば何個でも食べられるのが嬉しかった。
就職し、独身で働いていた頃は、人気の洋菓子店の高級なプリンを買ってきたりした。それは今思うと贅沢だが身軽なその頃はなんとも思わなかった。
結婚して子供が出来るとまたスーパーのプリンに戻り、プリンミックスで作った。一番人気は小さな鍋で固めてしまうプリン。
子供たちは顔を輝かせて、競うようにスプーンですくって食べたっけ…
「今日は月曜日だね!ママ、プリンは?」
子供たちの笑顔と可愛い声を思い出す。それと冷蔵庫から得意な顔でプリンを出す、まだ若いママだった私。
あの日々はずいぶん遠くに行ってしまった。
今はそれぞれ自活している息子たちを思う。連絡など滅多にこない。
夫と二人きりで静かにプリンなど食べずに暮らしていたある日、私はふいに、ちゃんとしたカスタードプリンを作ってみようと思った。オーブンで蒸し焼きにした固めのプリンを。
それから日曜日はプリン作りの日になった。
夫は出かけるのが好きではない。自室にこもって自分の好きなことをしている。
私も好きなことをしていればいいのだ。
最初はカラメルを作るのが怖かった。しっかり色がつくまで、水に入れた砂糖を火にかけ続けるのが恐ろしく、具合の良いカラメルソースが作れなかった。
今は違う。慌てず落ち着いて、しっかり火を入れ、香ばしい香りの立つ色の良いカラメルソースを作り、型に流し込む。
卵液も泡立ちすぎないように混ぜて、新しく買った具合のいい網で漉す。
オーブンの加減も上手になったから「す」が入ることもない。
さあ、焼きあがったプリンは冷めたら型ごと冷蔵庫へ。
そしてそれは「月曜日のプリン」になるのだ。
(了)
*実話ではないです。フィクションですよ!(笑)
*小牧幸助さんの企画に参加します
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