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『よるの童話』

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心のどこかが疲れた大人(ミモザ)による 同じようにどこかが疲れた大人のための物語集です。
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2023年11月の記事一覧

大きな貝殻をのぞく

だれもいない夕暮れの砂浜を一人で歩いていたら 大きな大きな貝殻を見つけた 中をのぞいてみる 貝殻がうす赤い光を通してほの明るくて 潮の香りがする 「わー」 声を出してみる 声はぐるぐる吸い込まれて行く 「こんにちはー」 ひそひそ声を出してみる やはり風のように吸い込まれて行く 中に入れるだろうか? はっ もしかしたらもっと頭を入れたら 鉢かつぎ姫みたいに 頭から取れなくなってしまうかも。 そんなふうにしばらく一人で遊んでいて 突然気がついた

snail mail かたつむりの手紙

「郵便です」 空耳のような小さな小さな声がしたので窓のほうをみると ほんの少し開いた隙間からかたつむりが覗いていた。 触覚に小さな小さな白い四角い封筒を付けて差し込んでいる。 「あらありがとう」 私は急いでかたつむりの触覚から手紙をはがしとった。 かたつむりは仕事を終え、のそりと下に見えなくなった。 「いくら”snail mail”って言うからってねえ」 私はひとりごとを言いながら、机の引き出しからピンセットとルーペを出す。 そしてピンセットで用心して小さな封筒を開けた。 そ

天井の梁の女の子

おばあちゃんの家のリビングルームの天井には梁がある。 ぼくは梁という名前を知らなかったけど、おばあちゃんが得意そうに「うちのリビングには梁があるからおしゃれでしょ?」とぼくに言って、頭の上のほうの木を指さした。ぼくは何がおしゃれか分からなかったけれど、こういうときに同意するのが大事だということは分かったので「うん、おしゃれだね」と答えた。 「おまけにね」 おばあちゃんは自慢を続けた。 「おしゃれな梁におしゃれな女の子が座っているの」 ぼくは意味がよく分からなくて、おばあちゃん