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『よるの童話』

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心のどこかが疲れた大人(ミモザ)による 同じようにどこかが疲れた大人のための物語集です。
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2023年7月の記事一覧

ウシガエルの鳴き声の玉

その公園は一周1㌔の大きさの池のある公園でこの7月は7匹のウシガエルが住んでいる。 それぞれちょっと離れた場所で、ボウボウ、ボウボウ、と鳴いている。 それは公園を歩く人みんな知っている。まあ7匹ということは知らないかもしれない。何匹かいるだろうとは知っているはずだ。 その公園は夜の9時まではぐるり周る道に沿って外灯が照らしていて明るい。しかし9時にその明るい外灯が消えてしまうと、薄暗い灯りだけになってしまい、一気に気味の悪い物騒な雰囲気の場所になる。なので9時になるとウォーキ

これは落とし文、だろうか [落とし文シリーズ3]

うつむきがちに夕暮れの道を歩いていたら、落ちている封筒を見つけた。普段なら見ないふりをしてそのまま通り過ぎただろう。でも何故か私はそのとき、かがみこんでその封筒を拾いあげた。封筒が不意に現れたような不思議な感じがしたからだと思う。 違った。 私がその封筒を拾いあげてしまったのはそこに書かれた差出人が見慣れた筆跡の見慣れた人の名前だと、一瞬で感じ取ったからに違いなかった。それは遠い昔、文通していた人の住所と名前と筆跡だった。私はくるりと返して封筒の表を見る。私の実家の住所と旧

子猫になってヒメジョオンの野原へ(しゅんしゅんぽん)

『月見草この薄紅と猫告げる』 ~桃色月見草の魔法~ 子猫になってしまいたい。そんなことを思う日はありませんか? わたしはあります。子猫になりたい。そしてどこかへ行ってしまいたい。でもきっと子猫というのは小さくて弱くて、生きていくのに困難の多い生き物でしょう。カラスに襲われたり車にひかれたり病気や空腹で倒れたり死んでしまったりするでしょう。 それでもこんな50代のこわばった人間の身体を捨てて、小さくてかわいくて柔らかい生き物になって、小さな花の咲く野原を歩いてみたい気持ちにな

クマさん、ありがとう【シロクマ文芸部】

書く時間なんていりません。本を読む時間もいりません。旅行に行く時間もいりません。珈琲を飲みに行く時間もいりません。おしゃべりする時間もいりません。買い物に行く時間もいりません。音楽を聴く時間もいりません。 しかたないので少し食べる時間、どうせ眠れないけど寝る時間、あとは夜、一人で散歩に行く時間。それだけでいいです。仕事だってしたくない。ほおっておいて! 書いているのを夫に邪魔された私はやけになって、古い部屋に倒れこんだ。西日があたる、畳が傷んだ部屋。ここに何十年住めばいいの