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原田ひ香『口福のレシピ』小学館文庫

前回の平松さんの本でこの作者のことを思い出して、新しいものを読んでみた。だいぶ前に読んだ『ランチ酒』は気楽に読めて料理の話も楽しかったので。

今回の本は以前のよりももっと小説らしさが増している。ひとつのレシピ(豚の生姜焼き)をめぐって、その料理が昭和初期の日本でどのように考案されたか(ある料理学校が舞台)、そして現代の働く女性(料理学校の経営者の末裔だが祖母や母に反抗している)がその料理をどのように改良していったかが、昭和と令和の話を交互に縄のように編みながらつづられる。今の日本人は当たり前のように肉を食べているが、昔は庶民が口にするものではなかった。慣れていない豚肉をおいしく食べる方法を普及させたいと、工夫を重ねてレシピはできあがったのだ。

よく思うことだが、レシピには著作権はない。だから誰かのものを多少アレンジして自分のレシピとして発表できてしまう。工夫したあげくにやっと考えついたものも簡単に盗まれてしまうのだ。いや、それよりも、今では当たり前になっている料理そのもののアイディアも、特許が取れるわけではなく、真似し放題だ。カツ丼親子丼とか、焼きそばパン、オムライスとか、最初に考案した人は考えたらたいへんえらい人ではないか。

次から次へと料理が出てくる『ランチ酒』とは違って、この本ではひとつの料理についての物語が丁寧に描かれる。そして巻末には料理研究家の飛田和緒さんとの対談が載っていて、それを読んで原田ひ香は飛田さんから料理を習ったと知った。へぇ、そういうわけで彼女は料理の小説を書き始めたわけなのか。ひとつの仕事にも物語があったのだと、感心しつつ読み終わった。

(世の中に数えきれないほどいる〈料理研究家〉だが、長く見ていると人気が出るには料理の腕だけじゃなく、人柄も同じぐらい大事なんだなぁとつくづく思う。栗原はるみさんがいい例だろう。特にテレビは人柄を容赦なく映し出してしまうのでこわいぐらいだ。この対談相手の飛田和緒さんは出しゃばり感がなくて、感じのいい人だなぁといつも思っている。)


追記:こちらのnote (かなこさん)では本に出るレシピを実践されています。おいしそう!!


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