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高樹のぶ子『小説小野小町 百夜』日経新聞出版

小野小町は六歌仙のひとりで優れた歌人だが、それよりもたいへんな美女だったということで伝説的な人。わたしはといえば、自分が初めて見た能の「通小町」が好きになり、小町に興味を持つようになった。能「通小町」はまさに「百夜」の話で、自分に言い寄る深草の少将に小町は「百夜通ってきたら…」と告げるのだが、少将は99夜めに死んでしまう。少将は死んでもうらめしげに小町に会いにくるのである。気の毒な少将。そして小町ってなんて冷たい女なんだ、と多くの人(特に男性)は思うわけである。

こちらの小説の方は、まだ幼い小町が母と別れる場面から始まり、この賢くて歌のセンスがあってものすごく美しい少女をぜひ都に連れていって活躍させようとなり、小町は当時の帝の女御のひとりに仕えることになる。非常に美しく、詠む歌が優れていることで宮中でも話題になり、いきなり帝に好かれて言い寄られたり、しかし小町は帝じゃなくて帝からのメッセージを持ってきた使者の方に惹かれたりするのだ。小町はまた、それ以前にも辛い経験をしている。故郷(出羽の国)にいる頃から父のように慕っていた叔父にいきなりレイプされているのだ。これが彼女の最初の男性体験だから、心に傷が残るのも無理はない。

現実の小町についての資料はほとんどないらしいから、ほぼすべてが作者高樹のぶ子のフィクションなのだろう。少なくともこの小説では、小町自身は自分の美しさや賢さをそれほど意識しておらず、ごく普通の女性のように描かれている。伝説で言われるほど男が次々に言い寄って来るわけでもない。むしろ若い頃に恋した男性を年老いてもずっと忘れないでいる純情さが強調される。有名な「百夜通い」とは都に広まった噂で、そのため小町は憂鬱な思いをするのだが、やがて老いた彼女が初めて知ることになるこの噂の真相もドラマチックで面白い。小説に登場する人物は在原業平をはじめ有名な歌人も多くて、自分が知っている百人一首の歌を思い浮かべたりした。擬古文のような語り口はちょっとどうかと思ったが、それなりに楽しい読書だった。ヘッダーの写真は散歩途中で買った大きな紅芯大根とのツーショット。

たぶんこれが今年最後の本になりそうです。みなさま、今年一年拙い感想文を読んでくださってありがとうございました。今年は世の中でも暗いニュースが多く、個人的にもあまり明るくない一年でしたが、来年は少しは希望が見えてほしい。そして来年もぼちぼち本を読んでいきます。






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