映画「護られなかった者たちへ」が見たくなるレビュー
試写会に参加してきました。
すごかった…一人で見ましたが、見た人と語り合いたくてたまらなかった映画です。
これぞ、ネタバレできない映画。
ネットで公開されている範囲の内容を引用して、レビューします。(完全にネタバレ厳禁という方はご遠慮ください)
宮城県のある街で、手足を猟奇的な手口で縛られ死因は餓死であるという遺体が発見されたところからお話は始まります。
捜査を担当する刑事(阿部寛さん)は、震災の津波で妻と息子を失った過去があります。孤独と後悔を抱えながら、刑事としての仕事をまっとうする日々です。
劇中の中では、過去と現在の描写が交互に描かれます。
もう一方の軸となるのは、おなじく東日本大震災で被災した天涯孤独な青年(佐藤健)。彼の人生もまた壮絶です。
しかし彼にはたったふたり心を許した存在がありました。けいさんというおばあさん(倍賞美津子さん)と、かんちゃんという小学生の女の子です。
彼らの悲しいが心温まる日々が、震災の何もかもが崩れてしまった町の描写と共に、描かれていきます。
現在と過去が、互いに明かされて徐々に縫合していきます。
そして、なぜ、犯罪は起こったのか。誰が関与しているのか。
驚愕の事実を知ったあとは、思い起こせば、あのシーンも、あのときの、あの人の言葉も、もう一度見たい、聞きたいと心が震えて止まりませんでした。
中盤から後半にかけての衝撃はすごいです。
そして、ラストはずっと泣いてしまいます。
あれ、泣かない人はいるのかな?ってくらいです。感動…というよりも、魂が苦しく強く叫びたい、訴えたくなります。
「魂が泣く」
この映画のキャッチコピーは、よくぞつけたと感心します。
阿部寛さん、佐藤健さん、倍賞美津子さんなどそうそうたるキャストの表現力は素晴らしいです。
しかし、特に秀逸だったのは、清原果耶さんだったのでは。賛辞に値します。
くしくも…宮城県の震災の町を舞台にしている映画です。
今、リアルタイムで朝ドラ「おかえりモネ」が放映中ですが、震災の傷を乗り越えようとするモネと清原さん演じる女性の役柄は、つい重なってしまいますが、映画を見るとわかるように、決して交わることはありません。
前半は静かに進んでいきます。大変重い「生活保護」というテーマを軸に。
しかし、後半の熱量は、まるで何かに殴られるように痛く激しい。
また、特筆しておきたいのは、この映画が作り出すセットや美術のリアルさです。
震災と津波の被害があった町のワンシーンごとすべてを、まさに昨日起こったかのようにリアルに再現している。どれ程辛く悲しい気持ちでこのセットを組まれたのか…と、思ってしまいます。
しかし、どうしてここまでというリアル感は、すべて、後半の事実に必要なのです。
視聴者は、それをしっかり見据えたからこそ、護りたい者、護られなければならなかった者という彼らの人生が、苦しいほど目の前でリアルに浮かび上がり、心を深く揺さぶられるのです。
生活保護の受給という重たいテーマは、実体験がない限りは、なかなか感情移入できないテーマです。
しかし、この映画は、伝えなければならない、映画を通して成し遂げる目的がある、という熱さを秘めています。どちらかというとたんたんとした「静」の映像の奥底に、たぎっている瀬々敬久監督の思いは、非常に激しいです。
それは、伝えたいがために犯罪者になった者にも通じてしまいます。悪い人は誰もいないのです。ただ、死んでいい命はありません。
持つパズルの形が違ったというだけのことなのです。
憎むのは震災であり、しかし震災もまた、地球の自然が起こした現象のひとつです。ならば、誰に憎しみをぶつけたらいいのか。
その答えを求めたい憎しみが表面化した犯罪の姿のグロテスクさ。いっそう悲しさを際立たせます。
被害者が犠牲となる場面は、そんじょそこらのホラー映画より恐ろしいかったです。なぜなら、それは精神的な怖さだからです。
悲しい犯罪者の姿に涙します。
震災の記憶と共に、もしかすると隣で起こっていたかもしれないこの出来事を描いたこの映画を、たくさんの人に見てほしいと思いました。
ラスト。
見てよかった、と心から思えます。
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