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【読書】スッキリする物語

脳科学者・茂木健一郎先生の「アハ体験」をご存じでしょうか。
脳は何かに気づいた時に活性化するということで、テレビ番組『世界一受けたい授業』でこの「アハ体験」がよく取り上げられていました。

今回は、そんな「アハ体験」のような、気づくととてもスッキリする一冊を
ご紹介します。


杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫)


「透きとおる」ってそういう意味だったのか!と思わず声を上げたくなりました。

主人公の燈真(とうま)は、文学賞を獲るほど有名なミステリ作家・
宮内彰吾の隠し子。
ライターの仕事をしている母親と二人で暮らしていましたが、
ある日母親が交通事故で急死してしまいます。
そして、その後ニュースで宮内彰吾の死も知ります。

母親が亡くなった実感も湧かず、ましてや会った覚えもない父親の死に
対しても感情が揺れることもなく、淡々とバイトと家事をこなす日々。
そんなある日、自分の腹違いの兄という人物・松方朋晃から
電話がかかってくるのです。

朋晃から依頼されたこと、それは父・宮内彰吾の遺作と考えられる、
『世界でいちばん透きとおった物語』の原稿を探し出すことでしたーー。

無遠慮で横柄な態度の朋晃に反感を覚えつつも、原稿の手がかりを
探すため、宮内に関わりのあった人々を訪ねる燈真。
生前の宮内の様子やその会話について聴く中で、接したことのない自分の
父親の姿を想像していきますが、
これまでのイメージからかけ離れた話に戸惑いを隠せない燈真。
話の終盤では、「あっ」と驚く真実が判明するのです。

この真実に気づいた時、思わずこれまで読んできたページを
読み返してしまいました。
そして、それと同時に、宮内の心のうちが垣間見え、
不意打ちで胸を打たれました。

個人的には、燈真が宮内の知り合いを次々と訪ねる場面で、
どの人も燈真に協力的で、真摯に質問に答えているのが印象的でした。
訪ねていくのが燈真ではなく、朋晃のような子供っぽいタイプの
人間だったら、こうも訪問が身を結ぶこともなかったでしょう。

適材適所。燈真の人となり、そして両親譲りなのか、
話をまとめ上げる能力が功を奏したのだなと思いました。

ミステリ小説では、作中の事件や謎のトリックを明かしていきますが、
今作で明かされる真実は、それとは一味違ったものです。
こんなことに気づかされるとは!という意外性のある一冊でした。

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