#33 <30sec.>展示会場に入って正面に見えるのが斜めに配置された2つの縦型モニターである。手前のスクリーンと奥のスクリーン。壁の裏側にはもう一つの横型のスクリーンが設置されている。#01の作品は入場後に振り返らなければ見えないので、実はこの作品が今回の展示の中心である。 目の前にある縦型のスクリーンの中では、ほぼ等身大のポートレートが、瞬きをしたり身体を揺すったりしながらこちらを見つめている。 レンズの向こう側から、手持ち無沙汰にこちらを見つめる被写体の姿と見つめあ
#31 Tokyo 2019 12月、東京の朝。この頃はまだ新型コロナのことなど誰も知らなかったし、2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されると思っていた。しかし同じ頃、中国内陸部の都市にある市場の片隅で、あのウイルスは生まれていたはずだ。それがこの国にもたらされるまでは、わずか1ヶ月ほどしかかからなかった。 霧に覆われた東京は、より不確実な未来へと流れていく。 #33 border | corona 2020年3月29日から6月10日までの東京のス
Wall_Eの最後はアメリカとメキシコの国境で撮影した横長の写真と、霧に覆われた東京の写真で終わる。それぞれの写真はどんな意味を持っているのだろうか。 #30 Tijuana. US-Mexico border 2019住宅街の向こうに広がっているのは、まるで竜の背中のように波打ちながら伸びる国境のborder。撮影した場所はメキシコの最北端、もしくはアメリカ最南端の境界線の街、ティファナだ。 アメリカとメキシコの国境線は全長3141キロメートル。今でこそ当たり前のこの国
ここでは、別々の方面に分かれた2人のシリア難民少女のポートレートを併置しています。1人はヨーロッパに、1人は中東に逃れています。 #28 Syrian Refugee, Lesvos island, Greece 2015 シリアの街を脱出して国境を目指す。トルコ国内を移動して海岸の街に辿り着く。密航業者にコンタクトを取り、家族全員分の大金と引き換えに小さなボートに乗る権利が与えられる。余計な荷物は全て海に捨てられ、暗闇の中を素人が操舵するエンジンに身を任せて数時間。そ
#26 Bago, Myanmar 2012 ミャンマーの中心都市・ヤンゴンから列車に揺られて数時間。バゴー という街に、チャッカワイン僧院という大きな僧院がある。およそ1000人の若いお坊さんたちが共同生活をし、住民の喜捨を受けながら暮らしている。宗教と生活が結びついた光景。何人もの少年僧が、突然やってきたカメラマンの被写体となってくれた。 敬虔な仏教徒の国、ミャンマー。しかし、この国にも簡単には越えられないborderがある。 #27 Kutupakong Rohi
Wall_Eは、各所に点在するborderをコラージュする壁になっています。一つ一つの写真から、2020年代という時代が透けて見えるものであってほしいと考えています。 #24 HongKong 2019 1997年7月1日、香港返還という歴史的なイベントを僕はテレビで見ていた。艾敬(アイ・ジン)という若い歌手が「我的1997」という曲をヒットさせていて(曲自体は94年に日本発売)文化的に遅れた本土の女の子が、憧れの香港に行ける…という歌詞がとても新鮮だった。 私を夢の世
Wall_Cには3枚の写真が並んでいる。横長の大きな写真には燃え上がるクレーターが写っている。その右側には破壊された家屋のそばで桜が咲いている写真、さらに右には崩壊寸前の大きな部屋にピアノが置かれた光景が映し出されている。 Wall_Dを構成する際に掲げたテーマは「化石燃料と原子力」。 この3枚の写真は、文明を陰で支えているエネルギーを象徴するものとして掲げられている。 以下は、展示プランである。 #21 Darvaza Gas Crater, Turkmenistan,2
Wall_Bを見終わると、次はWall_Cとなります。4mの壁を一面使って一本の映像が繰り返されています。 #32 Ishinomaki, Miyagi 2012■<30sec> 1827年にフランスのニエプスが写真技術を発明したとき、その露光時間は8時間だったという。目の前にある景色をそのまま写し取る…という魔法にも似た技術。その当時に自分が生きていたとすれば、それほど長い時間に感じなかったかもしれない。しかし画像をいかに定着させるか?という目標に向かって技術は1830年
◾️#17 Ushtobe, Kazakhstan 2019 中央アジアの国、カザフスタン。中心都市であるアルマトイから北東に250kmほど離れたところにウシュトべという街がある。昼食の食卓に並んだのはロシア風のいくつかの料理、そしてキムチだった。何故キムチがあるのか。その裏には#16で触れたスターリンの思惑と、82年前のborderを巡る問題がある。 ◾️強制移住 1937年10月、ソビエト連邦の沿海州に住む朝鮮族の人々に突然の通達が行われた。「すぐにこの土地を離れて別
◼️#11 Kunashiri island 2007 湖のほとりの小さな丘。秋の日差しの中、手をつなぐ父と娘。遠くには海が見えている。 タイトルを見てわかるように、この写真を撮影した場所は「国後島」。ロシアの人々は「Кунашир(=クナシル)」と呼ぶが、いずれにせよこの島の名前はアイヌ語に由来する。まさに日本とロシアがborderを巡って対立し、戦後75年が過ぎてもロシアによる実効支配が続いている北方領土の一つだ。 全長120キロ、幅24キロの国後島は、沖縄本島より
◼️#06 Jerusalem, Israel 2013 優しく微笑むユダヤ正教の少年のポートレートを撮ったのはエルサレム、嘆きの壁の前だった。BC20年のヘロデ大王の時代からおよそ2000年、ローマ帝国による支配、イスラム帝国(ウマイヤ朝)による支配、十字軍による奪還…まさに歴史そのものと言える出来事に立ち会ってきたこの壁。様々な勢力が積み重ねた歴史の矛盾が集積し、この地は今も不安定なままだ。 この時、10人程の若者のポートレートを撮らせてもらったが、現地に住んでい
■Wall B ここからの壁はWall B と呼んでいるセクションで、今回の展示の根幹をなすパート。ヨーロッパからアジアまで、ユーラシア大陸をイメージした壁となっている。 ■#02 Peja, Kosovo 2008 破壊されたゴミだらけの建物の中に、白馬が佇んでいる。新しい国ができるというのは、どんなことなのだろう。そんな思いで撮った写真である。 2008年2月、コソボ共和国はセルビアからの独立を宣言した。特に90年代以降2つの民族(セルビア人とアルバニア人)の間で
borderのステートメントを読み終えて顔を上げると、そこには額装された大きな写真が1枚展示されている。 #1 Lesvos island,Greece /2015 霧に霞む山々の稜線が微かに見える広大な海。その真ん中に、何か黒いものが浮かんでいる。タイトルは「Lesvos island, Greece/2015」。 あるいはニュースに詳しい人であれば、レスボス島と聞いてピンとくるかもしれない。エーゲ海の東端、ギリシアというよりはトルコの海岸線に近いこの島は、ヨーロッパ
◼️展示テーマ解説 私の写真のテーマは「border」である。これまでに「border korea」という作品を作って写真集を出したり個展を開いたりしてきたが、それ以外のborderにも関心を寄せ、世界各地で撮影を続けてきた。音声ガイドを目指すこのnote、ようやく会場へ…。 「新進作家展」の受付で作品リストを受け取り、岩根愛さんの壮大な作品「あたらしい川」を体感したら(それだけでも十分な鑑賞体験ですが)、次の部屋に向かう。そこに展開しているのが私の展示「border
写真家の菱田雄介と申します。2020年8月現在、東京都写真美術館(東京・恵比寿)で開かれている写真展「日本の新進作家vol.17 あしたのひかり」に選出され、「border」という作品を展示しています。(9月22日で会期終了です…) このnoteの目的は展示作品を一点一点解説し、見ただけではわからない背景を共有することにあります。2ヶ月の会期に来場できない方が多数いることも考え、会期後もオンラインで鑑賞してもらえるものにしたいと考えています。 ◾️この記事の目指すところは「