自己紹介が苦手
自己紹介というものが苦手だ。
それは初めて会った人たちの前で自分について知ってもらうための機会であり、語る内容には特に決まりがない。
だけど大人同士の場合、たいてい皆が知りたがるのは「相手がどうやって生計をたてているか」。
だからみんな
「私は記者をしています。」
とか
「アイスクリーム店で働いています。」
などと自分について語る。
聞く方もそんなことを言われれば、相手のことがだいたい分かった気になる。
私だってそうだ。
職業を聞けば、相手が何をして1日の大半を過ごしているか分かるから。
それが(全てとは言わないまでも)その人の人生の大半を構成するものと思ってしまう。
私の場合、仕事で自己紹介するとなるとこうなる。
「清掃と喫茶店のアルバイトをしています。」
人には仕事について話すことを期待するくせに、自分でこうやって自己紹介してみると、とてつもない違和感を覚える。
こんなの私じゃない、って。
私の話を聞いて相手は
「正社員じゃないんだね。何かやりたいことでもあるの?」
と訊ねる。
そう言われると、私は少し困ってしまう。
「やりたいことは、あるようなないような…」
女優になりたいとか、ミュージシャンになりたいとか、税理士の資格を目指してるとか、そういう明確なゴールを持っている訳ではないからだ。
好きなものならたくさんある。
物語、歌うこと、踊ること。書くこと。食べること。
食べ物や飲み物を人に提供すること。
手を動かして何かを作ること。
音楽を聴くこと。歩くこと。
などなどなど、たくさん。
こんなにたくさんあるから、好きなことで人生を埋め尽くしたい。
でも、それはイコール「その道で何かを成し遂げたい」ということではない。
『星の王子さま』で、
主人公が王子さまのことを大人に説明する時、王子さまがB-612番の星から来たことを話すと相手は「なるほど」と言って納得する、という描写がある。
でも、そんなことではこれっぽっちも王子さまを語ったことにはならない。
主人公が感じたのは、どこから来たかなんて関係ない、〈王子さまそのもの〉だったのだから。
王子さまは,ほんとうにすてきな人だった。にこにこしていた。ヒツジをほしがっていた。それが王子さまがこの世にいた証拠だ。
-内藤濯訳『星の王子さま』
医者、フリーター、会社員、無職、アイドル、瀬戸物屋…
そういう外皮じゃない、「自分そのもの」が伝わるような自己紹介が出来たらな、といつも思う。
何をどんな風に言えばそれが伝わるのか分からないし、そもそも伝えたい「自分そのもの」の明確なイメージがある訳でもない。
だいたい、その人がどんな人間であるのかを判断するのは聞き手の方だ。
自分が「こう見られたい」という像を相手に押しつけることはできない。
でも、なんとなく「通じ合ったな」と思える相手って、私の言ったこととか言わなかったこととか、全部含めて「私そのもの」を受け入れてくれる人なんだと思う。
だから私にできるのは、ひたすら自分を、外に対してあけ広げていくこと。
こうやって日々感じていることを書くことで、自己紹介の代りに、パズルのピースのような日々の出来事の切り端を覗いてもらうことで、きっと何かを感じて貰える気がする。
だから、このnoteと、ブログを始めた。
そして私自身も、むきだしの「相手そのもの」と向き合おうとする人間でいたい。