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予防接種

夏休み前に学校から「日本脳炎予防接種のお知らせ」が届いていました。推奨接種年齢は9歳以上の小学3.4年生ということなのでまだ少し期間に余裕はあるのですがこれから寒くなってくるとインフルエンザの予防接種や体調不良等も重なってうつタイミングを失いそうなので思い切って連れて行きました。

予約した時間に受診すると1組の親子が先に来ていました。落ち着いた綺麗な姉妹とお母さん。3人で静かに座って待っています。私たち親子は隣のソファに離れて座り体温測定をしたりして呼ばれるのをじっと待っていました。

息子が突然「ママ、報告があるであります」と耳元でささやいてきたので何事かと「何?何?」と報告とやらをうながすと

「あそこに座っているのは多分同じクラスの女子であります」

「えっ!そうなの?挨拶してこなくていいの?」近所の小児科ですから同じ学校同じクラスのお友達がいても不思議ではありません。

「あってるかわからないし喋ったこともあまりないから・・・。でも多分、見たことある」

「ねえ、わかってると思うけど君はもう小4だ。そして男子だ。同い年の女子がいる前で注射を怖がったら恥ずかしいよ。大丈夫かい?」

「わかってるよ!ぼくももう小4だよ。去年までのぼくとは違う。大丈夫だ」

昨年の息子はインフルエンザの予防接種を怖がってギャーギャー叫んでいたので、念のために確認しておいたのです。

すると女の子が診察室に呼ばれました。どうやら同じ日本脳炎の予防接種のようです。注射を打たれているであろう瞬間も女の子はうんともすんとも言わずとても静かでした。(待合室に診察室の声が聞こえるためなんとなくわかります)

そして「全然痛くなかったよ~」と言って待合室に戻ってきました。次にその子のお姉さんが呼ばれ、また静かに帰ってきました。

「ねえ、全然痛くなかったみたいよ。良かったね。頑張ってよ!!」と息子に言うと

「わかってる!!それにしても全然痛くないのか。やった!大丈夫!行ってきます!!」

息子の名が呼ばれ、彼はとても堂々と立ち上がり、途中ちらっと女の子の方を見て診察室に入っていきました。さすが小学4年生。たくましくなったものです。





「ギャー!!!ひえ~っ!!!!こーわーいー!やめて~!!!」


診察室から息子の叫び声が聞こえてきました。

私はびっくりして耳を疑いました。まぎれもなく我が子の叫び声です。注射におびえて抵抗しております。

・・・まじか。

クスクスクスと女の子が笑いました。それは面白いはずです。同じクラスの男子が小4にもなって注射で大声をあげているのです。

息子は涙目で診察室から出てきました。今度は女の子の方を見ません。女の子も下を向いています。


私に向かって「怖かった」と一言感想を述べ、座りました。息子が怖ったのはここにいる全員が知っています。あの叫び声を聞いたのですから。

「痛かった?」と聞くと

「怖すぎて痛かったかどうかはわからない」と。ああ、そうか。ひーひー叫んでいる時に打ってくださったんだな。わからないということはきっと痛くなかったんだろう。


「小さい頃はね、もっとたくさん予防接種をうけていたけどね、あんなに怖がったり叫んだりしなかったよ。今の方が大きくなったのに赤ちゃんみたいだね」

私も女の子親子の手前、息子が叫んだことに動揺し、ちょっと酷い嫌味を言ってしまいました。

すると息子がさっき病室に入っていったときと同じ堂々とした雰囲気で私にこう言いました。


「ママ、赤ちゃんの頃のぼくはまだ注射の怖さを知らなかった。でも今は知ってしまった。人間、知らないほうが強いんだよ。年齢じゃない。怖さを知ってるかどうかなんだよ!」


・・・。


待合室は静かでした。

恥ずかしかったです。



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