見出し画像

このために旅したくなるひと皿~運命の店に出逢ってしまった話 #ごちそうさまグランプリ

この店のこの料理を食べるために、飛行機に乗ってでも来るべきだ、そう思えるくらいの運命の店に出逢えたら。

それはとっても幸せなこと。

わたしとわたしの家族には、そんな風に大切にずっと通わせてもらっているお店が、ある。

ーーーーー

わたしがその店と出逢ったのは、生まれ育った街を離れ、関東で暮らしはじめてしばらく経った10数年前。

引っ越しのきっかけは、当時交際中だった彼が転職して関東へ行くことが決まったからだった。振り返ってみればその時、人生でもっとも楽しくやりがいのある仕事をしていたわたしは、それをあっけなく捨てて、何の迷いもなく一緒についていくことに決めた。

今思えば、引っ越し先には知人も友人もひとりもおらず、職すら決まっていない状態でよく飛び出したものだ。

右も左も分からずどのあたりに住めば良いのかすら見当もつかないまま、どうにか住みやすそうな街を見つけて、わたしたちは一緒に暮らしはじめた。

どちらも関西出身ではじめてのよその土地暮らし、行きつけの店も知っているひともいないなか、自分たちの舌と足で見つけた美味しいものやお気に入りの店が増えていくのが、とにかく楽しかった。

だんだんと新しい街にも慣れ、仕事も友人もいろいろな出逢いを経て関東での暮らしに馴染んできた頃、わたしたちふたりの関係はただの同居人から夫婦へと変わった。

といっても妻とは名ばかりで自由奔放に生きていたわたしには、大好きな食への飽くなき探求と、新しいひとやものとの出逢いを楽しみながら、多忙な彼のサポートを少しばかりするくらいのことしかできなかった。

幸い、わたしたちは食の好みという点ではとても気が合うようで、お互いに優先したいものが一致していたので、一緒にいる時間は短いけれど楽しく暮らしていけるように思えた。

ーーーーー

どちらが見つけたのかももう忘れてしまったけれど、そこは引っ越し先の街から少し離れた場所にある、食べログの点数がとても高いタイカレー屋だった。

エスニック料理が好きなわたしたちは「ここはどうしても気になるね!」と意見が一致し、ある日のランチで訪れてみることになった。

大きな道路沿いのウッドデッキに象の置物が置かれた、ひっそりとした外観。暗くて表から中の様子は全然見えない。

入ってみるとカウンターだけの薄暗い店内に、生真面目そうなマスターがひとりで忙しそうに立ち働いていた。お世辞にも愛想が良いとは言えないけど、ひと皿ひと皿気持ちを込めて、とても丁寧に作っているのが伝わってくる。

とりあえずタイ料理といえば、で定番のグリーンカレーとガパオを頼んだような気がする。が、初めて行った時に何を食べたのか、実はあまり記憶にない。

とにかく頼んだものが全て美味しすぎて感激し、わたしたちはなんとその夜すぐにまた再訪したのだった。

いまでも、2回目にドアを開けた時のマスターの顔が忘れられない。

「何回も来てくれるお客さんはよくいるんですけど、その日のうちにまた来た人たちは初めてじゃないかな…」

笑いながらマスターはとても嬉しそうで、昼間のちょっととっつきにくそうな感じはもうしなかった。

確か夜は少し空いていて、おすすめのメニューや組み合わせなどをいろいろ話してくれて、わたしたちは一気にそのお店のファンになった。

それから、忙しい日々の合間を縫っては、ちょくちょくお店に通うようになった。

やがて家族が増えることになり、より環境の良い場所を求めて、わたしたちはまた引っ越しをすることに決めた。新しい街は路線も違えば住んでいるひとの層もまったく違って、またイチからのスタートだと思えた。

新しく住むことになった街からも離れてはいたけれど、前の家から通うよりは少し近くなったその店に、わたしたちは相変わらず夢中で通いつめた。

あっという間にそこの定番メニューのすべてを制覇し、こっそり裏メニューを注文できるくらいまでになった頃には、ぽっこりと目立つ程度だったわたしのお腹もはちきれんばかりにすっかり大きくなっていた。

思えば大切な時期にわたしの身体と心のバランスを整えてくれたのは、あのお店のごはんのおかげと言えるような気がしている。

ーーーーー

とにかく何を食べても美味しくて、どの料理を頼んでも間違いない!のだけれど、特にオリジナリティに溢れていて中毒性が高いのが、この店でしか見たことがない『ドライグリーンカレー』なるもの。

たぶん、挽肉をグリーンカレーペーストで味付けしたものだと思うけど、ご飯の上に山盛りのぱらりと炒められたキーマに、これでもか!と乗せられたパクチー、水菜、青ネギの目の醒めるようなグリーン。砕いたピーナッツと細く刻まれたショウガが良い仕事をしてくれている。

これがもう、一度食べたら病みつきにならずにいられない、魔のメニューなのだ。

これはマジで中毒性があるので要注意!

画像1


ここでは半カレーセットといって、レッド・レッドイエロー・グリーンのミニサイズのカレーを、ごはんものと一緒に頼める。

グリーン×グリーンの組み合わせといったらもう!

まずはドライグリーンのフレッシュさを無心でそのまんまガツガツと味わって、半分くらい食べ進めたらそこからはカレーとともに、スパイスがこれでもか!と織り成す、新しい扉を開いてみて。

単品でもこんなに美味しいものに、さらに絶品カレーをかけちゃうなんて。反則にもほどがある。

画像4


あっという間にお皿は空っぽ、遅くても3日後にはまた食べたくなるから恐ろしい。

そうそう、壁に貼ってある持ち帰り用ドライグリーンの真空パックのでっかいポスター、あれ見たらつい買いたくなるなる!

お店でしか味わえなかったあのメニューが、家で簡単に再現できるなんて夢のようだもの。

といってもやっぱりできたてをその場で味わいたくて、ついついそれは買わずに日をあけず、また足が吸い寄せられてしまうのだ。

ーーーーー

ここの魅力はちょっとやそっとじゃ、とても語り切れない。

ちなみに食いしん坊サラブレッドの娘は、胎教のおかげというべきか、なんと生後4か月でこの店デビューを飾っている。

というのも産後、この店ロスに陥ったわたしがどうしても!どうしても食べたい!と熱望してテイクアウトに立ち寄ってみたら、たまたま店内にお客さんがわたしたち以外いなかったのだ。

取り外しできる、車用のベビーシートに収まって連れられてきた娘がすやすや寝ているのを見たマスターが「どうせならサクッと食べてけば?」と言うのを真に受けて、本当に食べて帰ったわたしたち。

とんだ英才教育のおかげで、うちの娘は離乳食明けから平気でパクチーをムシャムシャと貪る子になってしまったというオチまでついている(笑)

そんな娘のイチオシは、パクチーたっぷりの鶏のフォー。

画像6

驚くことに、何度ここへ来ようがこれ以外のメニューを頼んだことはない。

2歳頃まではハーフサイズで事足りていたのに、3歳になるかならないかで「大人と同じサイズでないと嫌だ!」と通常サイズをぺろりと平らげるようになり、とうとう小学生になったら裏メニューである〆の半ライスも一緒に頼んで、スープごはんにして完食するまでに成長した。

そして関西に帰ってきて、今ではすっかり遠くなってしまったその店に、それでもなにかと通いつめるわたしたち一家は、関東に行く機会があれば間違いなく訪れている。むしろそこへ行きたいがために予定を組んでいるといっても過言ではないくらいだ。

昨年、たまたま訪れていたタイミングで、娘の平成最後の晩餐はここのフォーになった。いつものようにぺろりと平らげた後「あー、令和最初のごはんもこのフォーがいいな♪」と言った娘。

「おっ、じゃあまた明日ね!」軽く笑いながら言ったマスターは、翌日ランチに訪れたわたしたちを見て目を丸くした。そりゃそうだよね。本当に来るとは!


普段、遠いところで暮らしていても、娘はしょっちゅう言っている。

「あー、フォー食べに行きたい!あの店のフォーでないとダメなの!今から飛行機に乗って飛んで行きたい!!」

うん、気持ちはわかるで(笑)

もしうちが富豪であるなら、プライベートジェットで今すぐびゅんと飛んで行きたい。まったくもって同感だ。

親子揃ってそんなにも!熱望されるほどの魅力的なメニューを持つ店を、わたしは生涯で他に知らない。

ーーーーー

やっぱりわたしのおすすめNo.1は、辛すぎず万人向けで食べやすいドライグリーンカレーだけど、辛い順からレッドイエロー、レッド、グリーンと揃ったいわゆる普通のタイカレーも捨てがたい。

ピーナッツの歯ごたえがアクセントの、優しいまろやかさが絶妙なマッサマンカレーや、透き通るスープからは予想もできない爽やかで鮮烈な辛味がやみつきになっちゃう森のカレー、ゲーンパーなんかもマニアックながら人気ランキングにぐいぐい斬り込んでくる。

ああ、食べたいものがありすぎて選べない!身体がひとつじゃ足りない!!という嬉しい悲鳴は、このお店ならではの悩みかもしれない。

おすすめの前菜は、もし見つけたら迷わずパクチーポテトサラダを。彩りよく添えられたピンクペッパーと、隠し味の意外なあるものがポイントになって、たぶんこれまでに味わったことのないポテサラの世界を体験できる。

画像2


それから、絶妙な半熟具合のいわゆるオムレツの中にパクチーがこれでもか!と散りばめられたパク玉丼はパクチー狂のあなたにこそ食べてほしい。

画像3


その上に一切れだけ乗せられた、箸ですっと切れちゃうベトナム風?角煮をもっと食べてみたい!ってひとには、胃にとっても優しい甘辛味の角煮丼もあるよ。

それから、最近仲間入りしたグリーンカレーチャーハンもなかなかの伏兵。これは確か最初は賄いから始まり、そこから気まぐれでちょいちょい限定メニューに登場し、満を持してスタメン起用されたんじゃなかったかな?

画像5


そんな感じで唐突に現れる限定メニューや、知る人ぞ知る裏メニューなんかも多々あったりする。

ちなみにそんなわたしもまだ巡り逢えていない幻のメニューが数品あるのだ。

いつ行ってもなくなっている超数量限定のトムカーガイとかね。

昔ちょっとだけ見かけた、お隣のこれまた人気のうどん屋さんとコラボしたトムヤムうどんとかもまた食べたいなぁ。

エビと卵を使ったクンパッポンカリーとか、ランチではなかなか出逢えないパッタイなどは見つけたらラッキーなメニュー。

画像7

画像8

これは!と気になるものを見つけたら、とにかく機会を逃さず頼んでみることを、強く、強く!おすすめします。

あ、それからパクチーがダメなひとは、カレーやフォーを頼んでパクチー抜きにすれば大丈夫。ドライグリーンはパクチー抜きにしたら、たぶんめっちゃ殺風景になると思うからあまりおすすめしないけど。


お店のサイトが見当たらなかったけど、恐らく最新情報はこちらから。結構変動ありなので、営業時間の変更やお休みなんかをチェックしてからお出かけくださいね。



お店の場所、残念ながらどの駅からも遠い!

歩くのはかなり無理があるので、バスかタクシーは必須です。

マイカーの方は裏手に駐車場あり。ちょっと停めにくいから初心者や大きい車の方はやめておきましょう。

だけど、タクシーに乗ってでも行く価値はあるから!ぜひ!!


マスター、今度は春休みかなぁ…。禁断症状が出る前に行くね!!

その時はトムカーガイ、あるといいなぁ♪

ーーーーー

☆あとがき☆

得意のすべりこみ!で1月中になんとか仕上げました。

締め切り伸ばしてくださったんですけどね。

でも早くここのことを知ってもらいたかったから。

ずっとどのお店の何を紹介するか悩んで悩んで、やっぱりここしかないんじゃない!?って心が決まってからは、もう早く書き上げたくって仕方がなかったんです。


根っからの食いだおれと言われる関西人ですから、地元にも旨いもんや紹介したいお店は山ほどある。

だけど、ここnoteで取り上げてみんなが行きやすそうなのはやっぱり関東圏よね、と。

そしてここ、イムイェムの実力を、もっともっとたくさんのひとに知ってもらいたい!そう、ずっと思っていたので。

いつも満席で入れないお店になるのはちょっと困るけど、わたしたちが行きたくなったらいつでも行けるように、ずっとずっと続いてほしいお店だから。

ひとくち味わえば分かる、このお店のすごさをたくさんのひとに知ってもらいたい。

わたしの文章がどうこうじゃなく、店主のテラさんにどうしてもこのグランプリを取ってもらいたい!

そしてごちプリ受賞報告という名目で、春には会いに行きたいな♪とひそかに目論んでいるのです(笑)



ホワイトデーのその日まで、たくさんの『ごちそうさま』を読めること、楽しみにしています。

サポートというかたちの愛が嬉しいです。素直に受け取って、大切なひとや届けたい気持ちのために、循環させてもらいますね。読んでくださったあなたに、幸ありますよう。