短編小説0053 最初で最後の卒業式 772文字 1分半読
「父さん、写真撮ろうぜ」
「お、そうだな」
「はーい笑ってー」
『パシャ』
「父さん初めてだよね、学校来るの」
高校生の亮太の卒業式
オレは生まれて初めて亮太の学校行事に参加する
亮太が幼稚園の頃から運動会やら事業参観、入学式など本当に一度も参加したことが無い
妻が毎回参加してくれているとは言え、
オレはオレで仕事だからとは言え、
酷い父親だ
「父さんごめんな、大学受からなくて」
「え?」
「父さんと学校で会うの最初で最後なのに、華を添えたかったよ」
「おい!ばかだなあ!卒業すること自体が華じゃんかよ。何言ってんだよ。そんなこと気にするな。浪人は人生のいい経験だぞ」
「ふふ、まあね」
オレは知っている。
亮太が今まで、オレに行事を見に来て欲しかったことを。
行事には、都度、必ず息子が自慢したい何かがあった。
写生大会での入選作品
徒競走での一等賞
学習発表の優秀な成果
俺に見に来て欲しかったんだ
でもずっと見られなかった
ゴメン
だから今日は本当に嬉しい
オレがゴメンなんだから、お前がゴメンなんて言うなよ
亮太に怒られた事もあった。
「何で来てくれないの?」
苦しかった。
でも言い訳はしない
いや、そんなことより、今、眼の前にいる亮太を感じ、喜ぼう。
「はいこれ」
「え、オレに?何?」
亮太はオレにキレイに包装された小さい箱をくれた。
「開けてみて」
「これは・・・万年筆・・・」
「父さん、行事ごとにオレに手紙くれてただろ。仕事で行けないけど応援している、みたいな内容で」
「ああ・・・」
「あの手紙は、全部とってある」
「え!嘘だろ!」
「ホントだよ。また書いてくれよな!まあ、もう浪人生だからちょっとハズイけどな。ハハハハ」
オレが・・・今、亮太からプレゼントもらってどうする・・・。
バカ・・ヤロ・・・
おしまい