大樹のことば、はじまりの物語
一昨年のある日、わたしは、樹齢1500年の大樹に会いに行きました。そんなことは、生まれて初めてでした。
森の中で静かに立ち続けるその存在を認めた時、何とも言いようのない神気のようなものを感じました。
結界が張られているような、近づいても押し戻されてしまうような、静かなる力強さをもって迫って来る大樹のエネルギー……。その存在感は、それまで感じたことのない、生命体としての威厳のようなものをたたえていました。
人間の一生では決して捉えることのできない、大樹が生きた時間の長さ……。その経過を思うとき、森がたたえている豊かな水脈と、途絶えることのない生命エネルギーの循環というものに、神聖さと豊かさを感じずにはいられませんでした。
大樹と対面したときのわたしは、こころの中に、忘れがたい不思議なメッセージを宿していました。
「あなたが、水になるのです」
不思議な水のメッセージは、風に舞う木の葉のように、舞い降りてきたのです。そのとき、わたしは、初めて訪れた遠い森の中で、湧水と樹々が奏でる心地よいハーモニーを楽しんでいました。
「水に……?」
水とは何か……。
水とは、生命を生かすために必須の物質です。
そして、わたしにとって、水は、乾いた心を生還させるものでもあります。
人と人との間に流れる、光のようなもの……。
では、わたしが水になるとは……?
問いを抱くわたしの意識の窓に、光が差し込むかのように、
大樹は、メッセージをくださいました。
(ただ 居ること)
樹も水だと教えてくださったのです。
樹は、ただ居ることそれ自体に意味のある存在だと。
そして、地中の水脈のこと、森全体の水の循環のこと……
生命を育む前提の「水」が、
どのようにそれ以外の姿となって地上に現れるのか……
それまで聞いたことのないお話を、してくださいました。
竜神が水を護ると言われるように、
樹もまた竜神と深いつながりを持っているのだということも……。
その日を境に、
わたしは、大樹から学び、水の神様とのご縁がひらかれ、
水になるというメッセージの本質を、見つめ続けています。
それは、生きるということの本質に通じているように思われます。
大樹のことばは、旅の記録であると同時に、わたし自身の人生の探求に寄りそってくださる、生命エネルギーのメッセージでもあります。
ことばを大切にする身近な方たちの促しもあり、ここで公開することにしました。大樹たちのことばが、ご縁のある皆様のこころに、水のような生命力となって流れて行きますように。