【短編ホラー】ショッピングモール


ハァッハァッハッ


息が切れる。もう何分走っているのだろう。後ろを振り向くと、血走った目の男が追いかけてくる。
怖い、逃げたい。なんで私がこんな目に?
泣きそうになって唇を噛み締める。こんなことありえない。絶対に現実じゃない、悪い夢に決まってる。
「覚めろ…覚めろ…覚めろ…」
祈るように呟く。そうだ、この恐ろしい出来事が起こる前に、何かきっかけがあったはずなんだ。
私は回らない頭で必死に今日の出来事を思い出した。

数時間前、私は隣町にあるショッピングモールに訪れた。
ここは先月オープンしたばかりで、多くの人で賑わっていた。3階建てのモール内には有名ブランドをはじめとした数々のテナントや、映画館、レストラン街が入っている。
人が多いところは苦手なのだが、ちょうど行きたかったブランドが入っていたこともあり、興味本位で訪れたのだ。

お目当てのものを早々に買ってしまい、手持ち無沙汰に店を見て回っていると、何か嫌な視線を感じた。
辺りを見回すと、5メートルほど後ろに立っている男がこちらを見ていることに気づいた。
「何あれキモ…」
思わず声が漏れる。折角良い気分だったのに台無しだ。私はイラつきながら足早に立ち去ろうとした。
「は?」
思わず立ち止まる。暫く歩いて後ろを振り返ると、先ほどの男がついて来ていた。
「ムリムリムリムリ…」
私は歩くペースを上げた。振り返る。…いる。さらに早歩きになる。………いる。
私は走り出した。ショッピングモールだろうと、人目があろうと関係ない。不審者につけ回されている。

「ヒィッ!」
振り返ると男も走り出していた。無表情で大きく目を開き、こちらを凝視している。
「誰か助けてぇ!!!!!!」
助けを求めるも、反応はない。我関せずといった様子で、誰もこちらを気にしていない。
「誰かぁ!!!!!」
この異常事態を見て見ぬふりするなんて、頭がおかしいのか?邪魔な鞄を放り捨てる。怒りと恐怖で震えながら、私は走り続けた。

……

「いや、きっかけとかないし!」
必死に記憶を辿った挙句、私は叫んだ。突如不審者に目をつけられ、追いかけられているだけじゃないか。
しかしそれよりも奇妙なのは、周りの人が私たちの存在など見えていないように振る舞っていることと、ショッピングモールの出入り口が見当たらないことだ。入ったときは確かに入り口があったはずなのに、今はどこにも見当たらない。
まるでゲームの中の世界を永遠に走り続けているようだった。

「ぎゃっ!?」
後ろを確認し、前を向いた瞬間、目の前に女性が現れた。
ぶつかる!と目を瞑る。

「は…?」
ぶつかった…はずだった。しかし、私の体は女性を通り抜けていた。ホログラムのように、女性の実体がない。
頭が追いつかない。まさか、と他の人を見る。よく見ると、人々の足元が透けている。
振り返って確認すると、男も同じだった。上半身だけみると普通の人間のようだが、足元に行くにつれて体が透けている。

こいつらは人間じゃない。じゃあ、このショッピングモールは何だ?私は?
私は、人間なのか…?
ゲームの中の世界。先ほど頭に浮かんだ言葉を思い出す。
汗が背中を伝うのを感じた。私は力なく笑った。


昔見た夢を小説にしました。

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