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はやく乗り越えようとするよりも

大好きな映画がある。 2010年に公開された、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督作品「ラビット・ホール」 主人公を演じるニコール・キッドマンは、高校生が起こした交通事故により4歳の一人息子を8ヶ月前に亡くして…というところから始まる物語である。 子どもの事故死という重いテーマに関わらず、優しい音楽とゆるやかな流れで進むこの映画では、登場人物同士の対話がとても丁寧に描かれている。 映画の中にとても印象的なセリフがある。 主人公の母が、自身の悲しい過去を重ねながら静かに語った

    • あの人は父か、恋人か、もしくはどれでもない何か

      学生の頃、憧れている人がいた。 彼は私より何歳か年上でとても頭が良く、私が学びたいことに長けていて、将来の理想の姿そのものに見えた。 彼とはメッセンジャーで連絡をよくとっていた。話す内容は色々で、些細なことから大きなテーマまで幅広く、時間を気にせず好きなタイミングで無邪気に話し合うような状態だった。 相手はどう思っていたかは分からないけれど、私は頭の良く機転が利く人との会話はこんなに面白いんだと初めて教えてもらった気持ちでいた。 そんな刺激的な時間を過ごす一方で、その当時

      • くだらない目的を共有できる人

        私が10歳くらいだった頃、よく父と2人きりでチョコレートパフェを食べた。 1ヶ月に1回くらいの頻度だっただろうか。別の用事のために出かけた先の、最寄り駅にある喫茶店やファミレスで、着席してすぐメニューを開いて「チョコレートパフェ」の文字を確認し、私が食べるチョコレートパフェ1つ、父が飲むホットコーヒー1杯を注文するのが恒例だった。 用事の内容は買い物だったり、親戚の見舞いだったりと毎回様々だった。それでも父の私への誘い文句は決まって「一緒にチョコレートパフェを食べに行こう」だ

        • 記憶のふるさと

          私の母親は昔、少し忙しい人だった。だから私がまだ未就学児だった頃は1日の殆どを近所の大人と過ごし、面倒をみてもらっていたことを覚えている。 当時、私たち家族は同じ間取りの部屋が並ぶ集合住宅外の一室に住んでいた。私が通う近所の幼稚園までの通園時間、幼稚園が終わった帰宅後の、夕食前までのお絵かきや公園で遊ぶ時間。幼稚園で過ごす以外の時間を家族と過ごした記憶はあまりないくらい、当時の私は一つ上の階や隣の棟に住む3家族ほどのご家庭に交代で話し相手・遊び相手になってもらっていた。