ちょっとした自慢(DIVE!!/森絵都)

飛び込み競技、見たことありますか?

私は何度か生で飛び込み競技を見たことがある。
そして、それをちょっとした自慢のように思っている節がある。

水泳には、競泳、シンクロ、水球、そして飛び込みの4競技があるが、水泳と聞いて真っ先に思い浮かぶ競泳以外はマイナースポーツと言っても怒られることはないだろう。
生で見たことがある人はそう多くないのではないか。

しかし、私は飛び込みはとても魅力的なスポーツだと考えている。
というのも、競泳をやっていた頃、自分の試合の空き時間に隣のダイビングプールで飛び込みが行われていると、いつも競泳の試合そっちのけでそちらに釘付けになっていた。
そこには、ただもの珍しいというだけではない、目を惹く何かがあったからだ。
そして、羨ましさも。
泳ぐことしか能のない競泳に対し、彼らは泳ぐことプラスαであんな高いところから飛んだり回転したりと華やかな技術を持っているから。

飛び込み競技を生で見たことがあるというのをちょっとした自慢と思い込んでいるのは、あんなにも魅力的でかつマイナーなスポーツを私は見たことがあるんだぞという一種の優越感によるものだ。
そして、その優越感を増長したのが、間違いなく「DIVE!!」という名作の存在だ。

読む者の心を打つ3人の少年たちの姿

「DIVE‼︎」は、ごく普通の中学生の知季、津軽の海からスカウトを受けてやってきた飛沫、オリンピック選手を両親に持つ要一の3人が、突如現れた女コーチ夏陽子の指導の下、ダイビングスクールの存続をかけてオリンピック出場を目指す物語。
全く異なったバックグラウンドを持つ3人が、三者三様の壁にぶつかりながらも、必死にもがき、立ち上がり、オリンピック選考会へと挑む。
物語は上下巻(文庫)の4部構成で、1部では知季、2部では飛沫、3部では要一が、それぞれ葛藤しながらも成長していく姿が描かれている。
そして、1部〜3部で彼らのオリンピック選考会へ懸ける想いを痛いほど知ってから始まる4部のオリンピック選考会は、誰が勝っても負けても嬉しいし切ないなあという気持ちで、終始目に涙を溜めながら読んだ。
最後の最後、勝負が決するラストダイブの場面では、そんな気持ちがより一層強くなり、ページをめくる手が止まってしまったほどだ。

様々な犠牲を払ってでも、青春の全てを飛び込みに捧げる少年たちの姿に心打たれる。

10年ぶりの再読、印象に残ったこと

今期のドラマ「DIVE‼︎」(次が最終回😢)があまりにもおもしろくて、どハマりしている。
そこで、原作どんなだっけと思ったのをきっかけに、今回小学生か中学生の時に読んで以来の再読に至った。

ドラマはユーモアたっぷりで毎週笑ってばかりだけれど、原作でも所々で思わずクスッと笑ってしまうような表現が会話が盛り込まれており、森絵都さんのセンスが好きだと感じた。

そして、何よりも印象的だったのが、登場人物それぞれの良いところを見出して森絵都さんが肯定くれているような気がしたこと。
主人公の3人はもちろん、仲間のレイジや陵や幸也、知季の弟の弘也なども含め、この作品の登場人物たちは皆性格が大きく異なっている。
だからぶつかることもあるけれど、しかし悪役のような印象を受ける登場人物は誰一人としていない。
物語の中で、誰かのことを羨んで自分を卑下するような場面があっても、必ず周りにいる誰かがその人の良いところを見つけて認めてくれる。
これは物語の主題ではないかもしれないけれど、そういった作者の優しさが所々に散りばめられていることに心が温まったし、自分自身のことも肯定してあげようという気持ちになった。

10年前に読んだ時の推しも飛沫、ドラマの推しも飛沫だったけれど、今回再読してみてもやっぱり推しは変わらず飛沫(笑)。
でも、真っ直ぐ純粋で腐らない知季も憧れを抱いてしまうくらいいい子だし、真面目すぎるのにちょっとおバカな要一も憎めないし、みんないいところがあってみんなすき。
そんな少年たちとともに泣き笑い、青春を追体験できる「DIVE‼︎」、おすすめです。


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