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お粥やの物語番外編 第1章5-3 謙太の呟きと神様たちの内緒話

【賢者の言葉】
「まだ信じるべきものを知らないときには、感じることと欲するものを知ろうとすることだ」

アルベルト・アインシュタイン

【謙太の呟き】
欲しいものならたくさんあります。
数え上げたら切りがありません。
とは言え、僕はそれほど欲深くはないつもりです。
普通の生活ができればそれで十分。
やりがいのある仕事ができて、朝昼晩にご飯を食べられて、素敵な彼女がいてくれたら……。

「やりがいのある仕事」というのが贅沢なら、そこは、「やりたくない仕事でなければ」としても構いません。それでもダメなら「我慢できる仕事」に譲歩します。
食事は、朝を抜いても大丈夫。
でも、彼女のことだけは譲りたくありません……。


【神さんたちの内緒話】
「素敵な彼女は譲りたくないとは……。我儘な奴だ」
「二十六歳の健全な男なら、自然な願い事じゃないですか」
「こいつのどこが健全なんだよ。百円の賽銭ごときで、世界を手に入れようと企んだ男だぞ」
「彼は、世界征服なんて口にしていませんよ」
「いやいや、あのまま願い事を続けていたら、『世界を手に入れたい』と、世界の片隅にある鳥居の前で叫んだはずだ」

「世界征服は、河さんの願望じゃないですか」
「俺は日夜、世界平和を願っている男だ。世界征服などに興味はない」
「河さんの世界平和って、周りに、うじゃうじゃ、若い女の子がいて、彼女たちからチヤホヤされることでしょ」
「そういう一面も無きにしも非ずだが……」
「それは世界平和でなく、河さんが世界を征服したのと同じですよ」
「どうして、そうなるんだ」

「だって、嫌がる若い女の子を攫って来て、無理矢理、笑わせるんでしょ」
「おいおい、それじゃ、俺が悪の大魔王みたいじゃないか」
「大魔王とは大きく出ましたね。小悪魔くらいですかね。あれ、でも、そんな小者じゃ、世界征服はできませんか。前提に矛盾があったようです。私としたことが軽率でした」

「軽率じゃなくて、頭のネジが一本外れているんだよ」
「私の頭にネジなどありませんよ。ロボットじゃないんだから」
「例え話だろう」
「例えずに言うと、どうなりますか」
「ピントがズレているとか、俺に対して酷い偏見があるとか……」
「河さんに対して偏見なんて持っていません」
「それは違うな」
「おや、随分と自信を持って否定しますね」
「山さんは、俺が若い女の子ばかり好きだと言うが、そんなことはない。俺は老若を問わず、女の人が好きなんだ」

胸を張る河さんを見つめる山さんの瞳は、深淵の底に落ちて行くビー玉のように、仄暗くゆらゆらと揺れていた。

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