お粥やの物語番外編 第2章3-3 謙太の呟きと神さんたちの内緒話
【賢者の言葉】
「もしもこの世が喜びばかりならば、人は決して勇気と忍耐を学ばないだろう」
ヘレン・ケラー
【謙太の呟き】
石の上にも三年、会社に勤めて三年半……。
会社で何を得たのかと、誰かに尋ねられても、すぐには答えられません。
敢えて口にするなら、忍耐でしょうか。
でも、その忍耐にどんな意味があったのか、いまの僕にはわかりません。
もしかしたら、忍耐にも、色々な種類があるのかもしれない。
自分を強くするもの、あまり意味のないもの。そして心を蝕むもの……。
心に害を及ぼすなら、それはもはや忍耐とは別物じゃないですか。
とにもかくにも、過ぎた時間は取り戻せません。
その過去に意味を与えるのは、これからの自分の行動……。
なんて、カッコいいことを言えるはずもなく、頭を抱える僕でした。
【神さんたちの内緒話】
「こいつ、弱音ばかり吐いていないか。愚痴の多い奴は嫌いだ」
「河さんだって、ついこの間、愚痴っていたじゃないですか」
「そんなことを言った覚えはないぞ」
「自分にとって都合の悪いことはすぐに忘れるんですから」
「俺は、記憶力はいいんだ」
「それなら言いますが、女の子に道を訊こうとして、逃げられたことがあったでしょ。そのとき、『この社会はおかしい』と喚いていましたよ」
「そりゃ、そうだろう。その子、年寄りが困っているのに見て見ない振りをしたんだからな。俺がどれほど傷ついたと思っているんだ」
「本当に道に迷ったんですか。どうせ、いつものナンパ……失礼、若い女の子とコミュニケーションを取ろうとしただけでしょ」
「断じて、そんなことはない」
「目が泳いでいますよ。河さんは嘘が苦手ですね。それは数少ない美徳の一つですが」
「何を言う。俺は美徳の塊だぞ」
「そんな徳のある人が、嘘を吐いてまで、女の子と話をしようとしますか」
「若い子と話すと、元気が貰えるんだ」
「若い子じゃなくて、若い女の子でしょ。言葉は正確に使わないと」
「俺のことはどうでもいい。問題は奴だよ」
「大丈夫ですよ。ブラックな会社に三年半も勤めたんです。必ず、やってくれますよ。そうでなければ私たちは……」
肩を並べて、細くて長い溜息を吐く神さんたちでした。
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