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お粥やの物語 第4章4-2 「僕が生き返る方法は、とても難しそうです」

僕は女の人に向き直り、勇気を振り絞って顔を近づけた。
「やだー、なによ。私を口説く気なの」
女の人は豊かな胸を両腕で覆い、恥じらう乙女のように頬を赤く染めている。

「そんな恐ろしいこと、いや、だいそれたことをするつもりはあません」
「そうなの、残念だわ」
その言葉とは裏腹に、女の人の目には鋭い光が滲んでいる。
「単刀直入に訊きます。僕は完全に死んだのですか。もしかしたら、半分死んでいて、まだ半分は生きているのではありませんか」

僕の声が途切れると、店内は静寂に包まれた。
女の人の目が僅かに大きくなった。二人の老人は感心したように小さく頷いている。女の子は相変わらずの無表情だが、細い眉がピクリと動いたのを僕は見逃さなかった。
祖父は手の甲で涙を拭い、「あの子、私の孫なんですよ」と自慢するように、隣にいる男の人に語りかけている。
店主は優しい笑みを浮かべたまま、じっと事の成り行きを見守っていた。

どうやら、僕の推理は正しかったらしい。
えへん、と胸を張りたいところだが、そうも言っていられない。
問題はその後だ。

「僕は生き返えることが、できるんですか」
誰も口を開かない。示し合わせたように表情が険しくなっていく。
え~、そこは生き返る方法をさらりと教えてくれるところでしょ。

すぐに答えてくれない理由は何だろう……。
僕が生き返る代償に、誰かの命を犠牲にするのだろうか。
それは嫌だ。僕にはできない。たとえ大嫌いな、山際課長や貝原部長でもだ。

がくりと肩を落とし、僕は消え入るような声で言った。
「僕のために、誰かが死ぬのは嫌です。そなら生き返らなくてもいい。このまま、成仏してあの世に行きます」

女の人に目で促され、億劫そうに禿げ頭の老人が口を開いた。
「考え間違えをしているぞ。お前さんが生き返るのに、誰かの命は必要ない。それともう一つ、このままではお前さんは成仏できない。もちろん、天国になんて行けない。ずっと、この世界を徘徊することになる」

祖父がブルブルと首を振る姿が視界の隅に入った。
孫の窮地に動揺しているらしい。
お祖父ちゃん、そんなに激しく首を振ったら、関節が外れちゃうよ。
それに、動揺するような話でもないでしょ。
このままでは天国に行けないのは大問題だ。でも、そうならない方法を選択すればいいだけだ。僕が生き返っても、誰にも迷惑は掛からないのなら、生き返ればいいだけの話じゃないか。
どんな試練だって乗り越えて見せる。だって、僕はブラック企業で三年半も働いた男なんだよ。嫌なことに我慢するのは慣れている。

僕は軽く腰を持ち上げて椅子に座り直した。
「教えてください。どうすれば、僕は元に戻れるんですか」
女の人に促され、今度は白髪の老人が口を開いた。
「話は簡単です」
話に続きによれば、僕の肉体は病で壊れたが、中身である心が元気を取り戻せば、肉体は修復され、復活できると言う。

「心を元気にするためには、人助けをするしかありません」
白髪の老人はゆっくりとした口調で言った。
「そんなことでいいんですか。それなら、いくらでもできますよ」
「今のあなたは、誰にも姿が見えないのよ。声も届かないし、相手に触れることだってできない」
女の人の言葉が鋭い刃となって、僕の胸にぐさりと突き刺さった。
忘れていた。それでは人助けはできない。

黙り込んだ僕に向かって、女の人は笑みを強めた。
「だから、シンデレラを救出させようとしたんじゃない」
この世界の人には接触することは不可能でも、シンデレラが暮らす世界の人々とは触れ合うことができると言う。
シンデレラの世界はどこにあるのか、と尋ねたが、女の人は意地悪そうな笑みを浮かべて、「内緒」と甘く囁いただけだった。

「シンデレラを救えば、僕は元に戻れるんですね」
「たぶんね……」
「そんなんじゃ、困ります」僕は語気を荒くした。
「やってみなければわからないのよ」
「どうしてですか」
「私たちも知らないの。だって、今まで誰一人成功しなかったんだから」

その言葉に、僕を取り囲む空気が冷たくなった。
真っ白な雪が降る中に、ぽつんと一人取り残されたように感じたのは気のせいだろうか……。

第4章5-1へ続きます。


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