ワイナリー訪問記「Tsukuba Vineyard(茨城県・つくば市)」
2024年10月26日、茨城県・つくば市にある「Tsukuba Vineyard」に伺いました。
Tsukuba Vineyardについて
「Tsukuba Vineyard」は、「つくばの地から『おいしい、新鮮な、そしてdaily(デイリー)なワイン』を提供すること」を目指し、2014年からワイン用ぶどうの栽培を始められました。
2019年12月には、農林水産省の6次産業化の「総合化事業計画」認定を受け、高品質なワイン生産と安定的な経営を目指し、2020年8月には「つくばワイン・フルーツ酒特区」の製造免許を取得されたワイナリーです。
生産者について
生産者であり「Tsukuba Vineyard」の代表を務める高橋学さんは、北海道出身で、大学の研究のためつくばに来られて以来約40年ほど、岩石や岩盤に関わる分野を専門とする研究職に長く従事されていました。
(↓高橋さん)
そんな折、たまたま北海道に戻った際に、ワイン造りで名を馳せる余市町のワイナリーやぶどう畑を目にしたときに「自分でぶどうを育てて、それでワインを作って、晩酌できたら幸せだなぁ」という思いがあふれたそうです。
高橋さんにそんな思いを起こさせたきっかけとなる人こそ、余市町の名高いワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」の創業者である曽我貴彦さん。
「Tsukuba Vineyard」なのに栗原醸造所?
さて、「Tsukuba Vineyard」はつくば市に位置しますが、「栗原醸造所」と名がついています。
地元の方でしたら不思議に思わないのかもしれませんが、県外から訪問したわたしにとっては「?」ばかり。
「Tsukuba Vineyard」なのに「栗原」、代表は「高橋」さんなのに「栗原」……一体どういうことなのでしょう。
実は、この「栗原」とは、「Tsukuba Vineyard」の位置するエリアの地名なのだそう。これでスッキリしたのはわたしだけでしょうか?(笑)
「ドメーヌ・タカヒコ」の曽我さんに影響を受け、一念発起した高橋さんは、新規就農相談でつくば市役所を訪れ、現在の「Tsukuba Vineyard」が位置する、当時は耕作放棄地だった栗原地区に農地を借り入れながら少しずつ農場を大きくしてきたのでした。
ぶどう栽培
「Tsukuba Vineyard」では、2014年から始めたワイン用ぶどうの栽培から、
3年後の2017年には自社ぶどうでのワイン醸造を開始されています。
最初に栽培を始めた品種はプティ・マンサン。日本古来の品種ではなく、フランス南西部の白ぶどう品種を選ばれるところが、またユニークで興味を惹かれます。
「Tsukuba Vineyard」の代表品種の一つであるプティ・マンサンは、現在のラインナップの中では主にスパークリングワインの原材料として使用されています。
そのほか、甲州やシャルドネ、富士の夢、ヤマソーヴィニヨン、小公子などの多数のぶどう栽培にも着手し、きれいに育てられていることについて、高橋さんをよく知るボランティアの方から興味深いお話を伺いました。
高橋さんのお言葉をお借りすると「運よく丈夫に育っただけ」とのこと。
もちろん、その言葉の背景には並々ならぬ努力が隠されているのだとは思いますが、そんなふうには感じさせず穏やかにお話しされるご様子を思い浮かべると、今回、初めて訪問したわたしに対しても、奥様とおふたりで大変あたたかく受け入れてくださり、ぶどうに対してもやわらかい親しみを持って育てられているからこその賜物なのでしょう。
SDGsへの取り組み
「Tsukuba Vineyard」では、以下の4つの試みにも取り組まれています。
耕作放棄地をぶどう畑に再利用
オーナー制度を通じた農作業体験
ぶどうの搾りかすを鳥の餌に再利用
ぶどうによる草木染の着物
つくばコレクション認定
持続可能なワイン造りのために、ワインをいただく側のわたしたちが今できることも何かあるのではないか、そんな風にも考えさせられました。
目指すワインのスタイル
「Tsukuba Vineyard」で目指すワインのスタイルは、
「フルーティさがあり、それでいてしっかりとした味わいで、酸が十分に感じられるワインを造っている。和食・洋食を問わず、食材の垣根を超えた味わいで、食事と一緒に飲むことでワインのおいしさを十分に感じられるスタイルを目指している。」
とのこと。本日テイスティングさせていただけるワインは4種類と伺い、合わせるお料理とのペアリングへの期待もますます膨らみます。
ワインテイスティング
最初にいただいたのは白ワイン
「2021 TSUKUBA SERIES KURIHARA 白」
モンドブリエ40%、甲州30%、シャルドネ30% のセパージュです。
「Tsukuba Vineyard」では、すべてのワインに樽は一切使用せず、ステンレスタンクでの発酵・熟成を行っているとのこと。
香りの第一印象は、洋梨や柑橘系果実、味わいは現行の2023年ヴィンテージと比べると酸が落ち着き柔らかな印象とのことで、早熟のムルソーのようなコクや深みも感じました。余韻に微かなレモンピールを思わせ、大変バランスの良い仕上がり。
前菜はもちろん、素材を生かしたシンプルな魚料理や鶏肉、豚肉のお料理にも合いそうです。
この日は、普段一緒にぶどうの収穫やワインの醸造をされている方をお招きしてのBBQということで、サンマの塩焼きにも絶妙なマリアージュをしており、驚きました。
次にいただいたのは、「2023 TSUKUBA SERIES KURIHARA ロゼ」
MBA(マスカットベーリーA)から作られたロゼワイン。しっかりとした味わいは、すもも、さくらんぼなどの酸が特徴的な赤系果実を彷彿とさせ、若干の微発泡がまた食欲をそそります。
ベリー系のチャーミングな味わいのその先に、バラのような繊細な香りも感じられ、1本あけてその変化をゆっくりと時間をかけて楽しみたい、そんな気持ちにさせられるロゼワインでした。
(ちなみにこちらのロゼワインにもサンマが◎ぜひご自宅でも試していただきたいです)
3杯目にいただいたのは「2021 TSUKUBA SERIES KURIHARA(ヤマソーヴィニヨン)」
アメリカンチェリーの香りが全体にあふれ、口に含んだ時のキャンディ感のあとから追ってくるアーシーな感じが何とも言えない幸せな気持ちにさせてくれる1本です。山ブドウならではの程よい酸が存在感を放ちながらも慈悲深い味わいが、飲む人をほっとさせる、そんな優しい味わいが体中に染みわたる赤ワインで、シンプルにグリルした赤身のお肉と素晴らしいマリアージュをみせてくれました。
最後に4本目……!
と、楽しみにしていたのですが、ここでタイムオーバー。ワインとお食事、おしゃべりを楽しみすぎてお時間がなくなってしまいました(笑)
それもそのはず。お料理はすべて奥様の手作りなのです!
まさかのハードパン2種も手作りとのことで、本当においしくて、販売されているものと遜色ないそのお味に驚くと同時に「どこで購入できるのですか?」 と伺ったのはきっとわたしだけではないと思います。
楽しみにしていた4本目の赤ワインは、ボトルで購入させていただきましたので、いただいた際にはこちらのnoteを更新したいと思います。ぜひお楽しみに。
まとめ
「Tsukuba Vineyard」は、人とのつながりを大切に、愛情をたっぷり注がれたぶどうから、それぞれのぶどうの個性を素直に生かした、素晴らしいワインを生産されているワイナリーです。
現在、販売ルートは、ワイナリーのある直営所、茨城県内の酒販店(スドウ酒店、佐藤酒店など)、不定期開催のようです。
茨城県内のワインイベントなどの際に出展されているほか、他県であれば横浜の君嶋屋「日本葡萄館」でも扱われているとのこと。
いつかこの素晴らしいワインたちを他エリアにもぜひ広めたい!そのお力添えをできる日が早く来ることを心から願っています。
ワインには、醸造されている方のお人柄が表れていると思っています。オーナーの高橋さん・奥様、そしていつもぶどうのピッキングボランティアなどでご活躍されている皆さま全員が初めましてにもかかわらず、まるで昔から知っているかのようなやわらかさで迎え入れてくださり「居心地よさ」を感じました。きっとわたしが感じたこの「空気感」はぶどうに、ひいてはワインにも反映されているのだと思います。
この度のご縁を本当にありがとうございました。
参照文献:「Farm to Table つくば」https://tsukuba.ibanavi.net/feature/localsake/596/