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コーチはできない人の気持ちなんてわからないんですよ!

 手先は器用な方だ。中学生の頃は授業中に1cm角の折り鶴を作ったり、何羽繋がった鶴が作れるかチャレンジしていたし、編み物縫い物紙製品あたりは作って当然と思っている。空袋リメイクの類も大好きだし、簡単なDIYも大好きだ。最近はカッティングシート作業を頼まれることが増えたりしている。技術の授業で作った作品は、弟妹が同じ作品を持って帰ってくるまでその出来の良さに気がついてもらえなかった、みたいなエピソードもあった。

 周りにも手先が器用な人と認識されているが、やる気にムラがあるので人のために何かするよりは自分の好きなものを好きなペースで作っている感じだ。

 余談だが、こねる系の料理も得意で、水分量で失敗したことがない。たぶん適切な硬さがなんとなくわかっているのだと思う。

 しかし、そんな私にも苦手なものがあった。ひとつはヘアアレンジである。似合うものが見つからないとか、難しいものにチャレンジしすぎと言うわけではない。たしかにわたしの髪の毛は量が多い割に毛が細く、癖が強いがこしはない、扱いにくい髪質のようだ。しかし、それを差し引いてもヘアアレンジが壊滅的にできない。未だに一つに結うしかできず、隣の席のお姉さまの毎日のヘアアレンジにうっとりするだけの毎日だ。

 もう一つ、苦手なものが平面を立体的にする作業である。フェイクスイーツづくりはできる。立体物を見て立体物を作るからだ。フィギュアのように、平面にあるイラストを立体に起こすことが全くできない。おそらく奥行きの概念が苦手なのだ。だってこの引き出しに収まると思っていたものが収まらないことが多々あるから。

 そんな私に試練が訪れた。一大ブームになったPUIPUIモルカーである。モルカーは羊毛フエルトでできたモルモット型の車(機関車トーマスのように、車だが意思を持っている)のお話である。コマ撮りで作成されているらしい。このモルカー、もともと可愛い物が好きな息子にはもちろん大ヒットだった。最初はアニメと同様の感覚でこの番組を見ていた息子だが、どこかで「このモルカーは作れるらしい」と知ってしまった。普段手先器用を息子にも自慢している大人気ない母であるから、もちろん息子は私にねだってきた。「モルカーを作ってくれ」と。

 羊毛フエルトは鬼門だ。粘土なら足したり削り取ったりが自由自在だが、羊毛フエルトは一回固めた部分を削り取ることはできない。そもそもちょうどいい形になったとき、ちょうど良い硬さになるかも怪しい。性格的についつい固め過ぎてしまう可能性も大きい。手を出さないでおこうと思っていたものの一つだった。しかし息子からのリクエストに応えないわけにはいかない。私は100均と手芸屋で羊毛フエルトを買ってきた。

 そして2時間かけた品が冒頭の写真である。息子のモルカー本を見ながら傾斜角や縦横比を図り作成していったがどうだろうか。足(タイヤ)も耳もついていないが付けたところで納得のいく出来にはなりそうにない。下手に平面ならなんとかバランスが取れるだけに、脳内での理想形との乖離が激しくて作っているのが辛い。

 これは3匹4匹作ればなんとか合格ラインに達することができるのだろうか。今までの人生でものを作る分野においては、できないことができるようになっていく過程をほとんど踏んでいないだけに、「できない人の気持ちがわからないコーチ」の気分と「コーチの言うことができるようになる気がしない落ちこぼれ」両方の気分を同時に味わっているところである。

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