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図書館員、電話をかけてあたふたする 予約本編

 図書館業務のひとつに電話連絡がある。代表的なのはやっぱり「予約の本の準備ができました」であり、「現在ご利用中の本の返却期限が過ぎております」である。かかってきた経験がある人も多いと思われる。特に後者の方で。我々はこの返却してくれ電話を「牛島くんコール」と呼び、あまりに応じてくれない場合はウルトラセブンをも撃退した、というか寄ってたかって再起不能にしたマグマ星人とレッドギラス、ブラックギラスを派遣して利用者を恐怖のズンドコならぬどん底に落とし……てはいないけど返して、本当に。

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 取り立てマグマ星人。

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 なんでこのご時世にわざわざ連絡が電話なのかという人も居る。電話代ももったいないし税金なんだからやめろ、とか、自動音声にかけさせれば人件費安く済むのにとか。が、全ての人がメールを扱えるわけでもなく、ホームページにログインできるわけでもないのがこの国の現状である。高齢化社会ではITが生活に浸透していない人々が一定数いるのだ。当たり前になったと一般的に思われてるテクノロジーから取りこぼされてしまってる利用者も可能な限り利用してもらいやすくするのも公共施設の勤めでもある。というかこのテクノロジー置いてけ堀ならぬ、テクノロジー置いてきぼり問題は今後も日本の課題になるのだろう。

 また、一人暮らしのお年寄りはともすれば一日中誰とも口をきかないで終わってしまうということも多々ある。特にコロナ禍の現在は輪をかけて孤独のようで、公共施設からの電話だって嬉しいそうだ。カウンターで直にそう言われることもしばしばある。何もかもコスパ重視で機械化していく時代が進むと自分が老人になった頃の話し相手はSiriやAlexaしかいないんじゃないかと、思わなくもない。すごいBB8やR2D2とかはいたら楽しそうだけど。

 予約本届きましたよコールは1日1回、3日連続かけて繋がらないようなら夜間にもう1回。それでも繋がらない時は葉書を送る。のだが、やっぱり高齢のお客さんが多いので、不通が続くと正直心配になってくる。

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「予約の連絡は電話をください。ひとり暮らしで、だいたい家におりますので」

「電話してちょうだいな。足が悪いからすぐに出られないかもしれないけど……主人に先立たれましてからひとりですしね、電話がかかってくると嬉しいわ」

「年寄り一人の詫び住まいです。生きてるうちに予約の本が回ってくりゃ良いですがなぁ。かっかっかっ」

 予約本の申し込みをカウンターで頼んでくるお客さんは大抵パソコンの扱いが不得手なので、自然と連絡もメールじゃなくて電話になる。色々と必要な確認をとっていると上記のような感じで生活環境がわかってしまう会話が繰り広げられる。

 そんなおひとりで暮らしている方に予約本届いたコールをかけていてずっと繋がらないと余計なお節介とはわかりつつ心配になる。人間だもの。最近特殊清掃のお仕事漫画を読んだのでなおのことそう思う。

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 お客さん相手に何を縁起でもないことをと言われても、老若男女問わず人はいつか死ぬわけで、ついぞ大丈夫かなと考えてしまう。かくいう自分もひとりぐらしをしていたとき、寝起きにすさまじく首をねくじって、かなりヤバいことになった経験がある。枕元に携帯なかったらマジでアウトだったなとゾッとした。

 でまあ、予約本届いたコールである。

 これも利用者によって希望が様々で一筋縄でいかない。「届いた予約本のタイトルは絶対に吹き込んでor吹き込まないで」という御要望をそれぞれ受けることがある。個人情報保護の観点から吹き込まないのがマニュアルではデフォなのだけれど、人気の本なのに留守録にタイトル吹き込まなかったからつい足が向かなくて取り置き期限が過ぎたじゃないかというクレームをもらったこととかある。……あれ、これ図書館側悪くなくない? 何で自分が怒られているんだ? と、正直なる。予約本が一気に4冊届いたお客から、期限内に読み切れるわけないんだから気を利かせて2冊だけにするとかできないのかと詰られることもあったけど、あなたの読書スピードなんて知りまへんがな。

 けれども一番多いのは、

「私、何か予約してましたっけ? ああ、あの本ね! それ頼んだの去年よね、時間かかり過ぎじゃない?

 という声。

 もう、買ってくれとしか言いようがない。出版社も書き手もあなたも皆んなハッピーになれるから。

 ちなみに、図書館の人たちは1番に村上春樹や東野圭吾の新作読めるんでしょう? と思われてるらしいけれど、そんなことはない。あくまで公共施設は利用者優先なので図書館員は(うちの自治体の場合は)新刊の予約はできない。読みたい本は買ってます。 

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