ちょっと長めの図書紹介㉔
読書バリアフリーといえば
野口武悟氏であろう──
■https://researchmap.jp/read0140258
正直なところそんなに詳しくは知らないが、
ひょんなことから
前著も読ませていただき、
ここでも紹介した。
(ちょっと長めの図書紹介⑰)。
『読書バリアフリーの世界』(三和書籍)
■https://note.com/milkychocolat/n/n0c7ccb0f6615
自分のなかでは
野口武悟氏=
〈読書バリアフリー〉マスターである。
──ということで野口氏
2冊目の読書バリアフリー本──。
本書の特徴は、
なんといっても豊富な事例掲載であろう。
帯や出版社のサイトでも
紹介されているように
『ハンチバック』で芥川賞を受賞した作家
市川沙央さんの推薦文では
「『みんなが読める』を
理想で終わらせない!」という
強い思いが寄せられている。
そう……
頭で考えているだけでは前に進まない。
理論と実践は
つねに往還しなければ意味がない。
それでは、
本書で紹介されている実践をみていこう。
読書バリアフリー、
「バリアフリー」という言葉を使うと
障害者対応という感覚が
ついてまわりそうだが、
紹介されている10の事例うち、
そのすべてが
特別支援学校にかかるものではない。
読書を主語とした場合に
文字が見えないだけではなく、
本が持てない、読書の体勢を維持できない
ページがめくれない、
書店に行けない(買えない)など
さまざまな読書への壁があることがわかる。
もちろん身体的な障害は大きいが、
それだけではなく
精神的なものや経済的なことも
含まれていくだろう。
野口氏は、
本書の読書バリアフリー実践として
以下の3点をあげている。
①「読書補助器具や読書支援機器」の整備
②「バリアフリー図書」の整備
③「対面朗読(代読)などの図書館・
サービスの提供」(p.17)としている。
①「読書補助器具や読書支援機器」では、
文字を大きくする「拡大ルーペ」や
特定の行に焦点をあてながら読むための
「リーディングトラッカー」
それにルーペがついた「リーディングルーペ」
弱視であっても
無理な姿勢を要しないで読める「書見台」
この程度ならすぐにでも用意が可能であろう。
「拡大読書器」や
「音声読書器」となると高額でもあり、
計画的な整備が求められる。
事務職員が一肌脱ぐ領域としてもっとも近い。
②「バリアフリー図書」として、
有名なのは「点字図書」や「大活字本」の
整備であろうが、
視覚障害者のみならず、
本を持つことが困難な肢体不自由者には
「録音図書(音声DAISY)」、
文字などをうまく読めないひとに向けた
「LLブック」という
写真やピクトグラムなどによる工夫が
施された本もあるという。
また、
お気に入りの図鑑や絵本を手にすると
その本の感触をたのしみ、
爪で痕をつけて破いてしまう子もいて、
その子に配慮した「CLブック」
(クリアフォルダーでページを保護)を
自作したという実践もある(pp.108-109)。
こちらも
多様性を考慮した予算配分や執行
そして要求につなげるべき実践であり、
事務職員としても
重要な取組となるだろう。
③「図書館・サービスの提供」では、
図書館という空間づくりへの工夫も多い。
バリアフリー図書を
書架に埋もれさせない実践として
「りんごの棚」が実践されている。
■https://appleshelf.jp/index.html
また、健康面による
入室制限がある子どもへの配慮として
天井からユーカリ(抗菌・抗炎症作用あり)を
吊るす実践が紹介されていた。
図書館運営とは直結しにくいが、
どんな子どもにも
読書空間を提供する意味では
たいへん意義深い実践となるだろう。
──個人的には
そのユーカリは公費で買ったのか?──
という気になる一面もあるが……。
これも
施設設備の整備や物品購入の面で
事務職員の活躍が期待できるだろう。
具体的な事例1~10は以下の内容である。
学校図書館を経由することで
国会図書館から直接デジタル端末へ
データ送信(貸し出し)をした実践(1)、
多様な子どもにこたえた
読書バリアフリー実践のプロセス(2)、
子どものニーズに応じた
読書環境づくり(3)、
子どもの行きたい!
にこたえた図書館づくり(4)、
学校図書館を活用した授業改善(5)、
読書習慣づくり(6)、
チームとしての図書館運営(7)、
多様な読書環境と
新しい「バリアフリー図書」の提案(8)、
点字を読む子と
点字ではない本を読む子が
いっしょに学ぶ環境をつくった図書館(9)、
その子の読みやすさ・
読む力に合わせた
バリアフリー図書の制作と提供(10)、
ひとつだけ事例の詳細を紹介しよう。
「学校図書館経由で国会図書館から
1人1台端末へ貸し出しが可能に」(事例1)
この事例は、
それこそ総合的なバリアフリー実践であり、
だれもがどんな状態でも
読書にアクセスが
可能となる実践ともいえる。
手続きはそれなりにあるようだが、
申請により国会図書から学校図書を経由し、
個人端末でデータを
受け取ることができるしくみである。
このことにより、
その子にあった読書ができるようだ。
子どもによっては、
このシステムを導入したことで
読書量が20倍以上に増えたという
結果も報告されている。
費用はかからないようなので、
すぐにでも真似できる事例であろう。
あ、いやもうひとつだけ
「チームで行う図書館運営」(事例7)も
念のため触れておこう。
チームとしての学校政策が叫ばれ、
さまざまな領域で
「チーム」活動が要求されている。
生徒指導でも学校安全でもいわれてきた。
今回の学校図書にかかる実践では
事務職員も費用面で重要な役割を担えると
提案してきたつもりである。
ぜひ事務職員もチームに加えてほしい。
少々脱線するが、
費用面からのかかわり以外でも
事務職員と学校図書館の関係は深いのだ。
事務職員の定数は、
基本的に1校1名だが、
小学校では27学級以上
中学校では21学級以上の場合
公立義務教育諸学校の学級編制及び
教職員定数の標準に関する法律により、
さらに「1名」追加される場合がある。
この大規模校における複数配置について
そもそもの立法趣旨を文部科学省は
「大規模校における
学校図書館担当事務職員の配置等が
可能となるよう、
事務職員複数配置のための定数措置」
と説明している。
■https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/meeting/08092920/1282905.htm
事務職員は、
学校図書館業務を担う役割も想定される
可能性がなくもないのである。
さて、そろそろまとめに入ろう。
本書の価値は「事例」と述べてきたが、
もちろん実践以外にも第1章では
「学校における
『読書バリアフリー』とは」と題し、
実践を支える理論のポイントが抑えられ、
第3章では、
13個の「Q&A」が用意されている。
まさに理論と実践を兼ね備えた書籍である。
さらに冒頭で紹介した
『読書バリアフリーの世界』(三和書籍)も
あわせて読むことで
キミも〈読書バリアフリー〉マスターだ!
……たぶん(笑)。
若染雄太さま、
いつもご恵贈ありがとうございます。
#読書バリアフリー法
#学校図書館
#大活字本
#市川沙央
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https://www.gakuji.co.jp/book/b10106932.html