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ちょっと長めの図書紹介⑬

#臨時的任用
#非常勤
#会計年度任用
#再任用
#任期付採用
#期限付任用
──どれも
いま存在する教員の任用形態である。

「教員不足」その「クライシス」とは、
たんに教員が足りないという
〈危機〉だけではなく、
正規採用以外の教員が増えてきているという
〈危機〉も含まれている。
この現象には、
正規教員の代替(休業等)としての非正規と
政策(定数崩し等)による非正規化がある。
さらに、
非正規ですら配置できない未配置状態という
〈危機〉も起きている。
その問題を明らかにしたのが本書である。

「教員は最大の教育条件である」(p.4)
──教員のいまを覗いてみよう。

さて、
……と続ける前に冒頭のハッシュタグ
そのすべてを理解し、
説明できるひとは多くないだろう。
事務職員として人事事務を扱っていても、
正確に説明できるかどうかは、怪しい。
しかし、
本書が提起している問題に
立ち向かっていくためには必須の知識である。
おそらくそれを見越して
本書には「用語集」が
用意されている(pp.185-190)。
ありがたい。
まず、用語集でこれらの概念を整理してから
読む始めることをオススメしたい。

改めて──
さて、
本書の構成は、以下の通りである。
教員不足・非正規化という
教育危機を乗り越えるために(はじめに)
その実態を研究知や
メディア目線から整理し(第1章)
現場のいまを伝え(第2章)
私学や大学、
教育行政の状況を確認し(第3章)
最後に教育の未来を展望している(第4章)。
執筆には、
研究者や現場の教員のみならず、
ジャーナリストやメディア関係者、
運動団体等の関係者を含んだ
総勢15名が参加している(pp.198-199)。
それぞれの専門性から
教員不足というテーマに
照準を合わせて書かれた
説得力の高い論考が16本用意されている。

第1章では
特に「未配置」による影響が興味深い。
未配置=ひとがいない
=授業ができないわけだが……
「不足教員分の授業を必死でカバーする
 自己犠牲によって支えられている」(p.22)
このようにマンパワーで
乗り越えてしまっている実態がある。
子どものためを思い、
自己を犠牲にしてでも
長時間労働が伴ったとしても
「教育に穴があく」(NHK)ことを
避けている。
自己犠牲ともいえるが、
献身性による支えともいえるだろう。
日本の教育は教師の献身性によって
土台を固めているといっても過言ではない。
しかし、それにより
未配置問題が明らかになることもなく、
報道と対応が遅れてしまったという指摘、
それもその通りだろう。
現場では葛藤が続いていく──
また、このように関係者でしか知りえない
ディープな問題もあるが、
社会全体の理解はまだまだ浅い。
非正規についても
「世間に知られていない
 公立学校の非正規雇用」(pp.36-37)
という小見出しからわかるように、
子どもや保護者にとっては
正規だろうが非正規だろうが、
担任の教員は〈先生〉なのだ。

第2章のタイトルは「もう限界! 現場の声」
たいへん貴重な経験論から、
読者にとっても見えづらい実態が顕在化した。
賃金などお金の面では、
「会計年度任用職員の賃金・労働条件」一覧が
参考になる貴重資料だろう(pp.58-59)。
大学のそれは、
p.112やpp.116-117でわかる。
これを参考にして、
なるべく条件がよい職種を探してほしい!
という思いではなく、
賃金と諸条件の過酷さを確認してほしい。
たとえば、
ほとんどの職種では自らの保険証が取得できない状態である。
家族等の扶養に入るという選択肢を
もっていればよいが、
そうではない場合、
国民健康保険への加入が必要となり
負担も大きくなる。

第3章では
非正規雇用を後押しするシステムとして
「雇用マッチング組織」の問題点を指摘する。
ひとが足りない──
それをシステムで探す
需要と供給のバランスを担う組織は
一見するとよいのではないかとも考えられる。
現にひとが足りないところに
ひとをマッチングできれば
教員不足もなくなっていくだろう──
表面的にはそういう理論も成り立つ。
しかし、
本書が問題視しているのは教育の現場として
「本当にこれでいいのか?」(p.136)
という指摘である。
さまざまなマッチングシステムのなかには
「教員免許ももたない『派遣者』を
 教員枠で学校現場に迎え入れる」(同)
という実態があるそうだ(臨時免許状)。
教育職員免許法には
「普通免許状を有する者を採用することが
 できない場合に限り」(第5条第5項)
と書かれているため、
積極的な条文ではないと
本書でも指摘している。
なんと埼玉県がトップ(2020年度・小学校)
409件もの授与があるそうだ(p.163)。
逆に教員免許をもっているが
教職に就いていない
「『潜在教員』は約100万人いると推計」
されている(p.5)。

第4章には
「用語集」をさらに補完できる
「非正規教職員の
 法的類型」(pp.146-147)が
整理され、より深い理解へと読者を導く。
また、正規と非正規では定年までに
驚愕な給料差が生じるという試算がある。
なんと月額給与で
「格差は総額約3,150万円」(p.151)
にもなり、
しかもこれにはボーナスや
退職金は含まれていないという。
さらに章末、
本書を締めくくるタイトルは
「教育改革の終着地としての
 教職のディストピア『教員不足・非正規化』
 問題のゆくえ」(pp.171-182)である。
「教員不足・非正規化」問題の進行は
「『ディストピア』へ
 突き落される瀬戸際」(p.182)
……ここから読み始めると
心臓に負担がかかるひとも多いだろう。

しかし、
向き合わなくてはならない事実もある。
ディストピアから脱却し、
ユートピアという夢物語に浸るだけではなく
改革に向けた行動が必要である。
確かなデータによる
確かな指針が用意されている本書は、
教員不足(人員・非正規・未配置)に対抗する
確かな指標となり、行動の源となるだろう。

本書は終始、
一般書(一般人向け)として書かれている。
そのため、
あくまでもベーシックとしての内容を網羅し、
読者に本問題の基礎知識を提供し、
問題の社会現象化がねらいにあるだろう。
しかし、
それだけでは終わらせない工夫もある。
巻末掲載の
「非正規教員に
 関連する文献リスト」(pp.191-197)の
存在は大きい。
ベーシック学習者から
スペシャライゼーション運動者への誘導──
本書の挑戦は終わらない。

山﨑洋介さま、
ご恵贈ありがとうございました。


#教員不足
#非正規教員
---
https://www.junposha.com/book/b627220.html

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