ちょっと長めの図書紹介⑰
2023年7月19日(水)──
第169回(同年上半期)の芥川賞が
市川沙央『ハンチバック』に授与された。
その記者会見で市川氏は、
「読みたい本を読めないのは、
かなり権利侵害だと思います。
障害者対応をもっと真剣に早く
進めていただきたいと思います」と、
読書バリアフリーへの環境整備を訴えた。
■https://hochi.news/articles/20230720-OHT1T51166.html?page=1
市川氏については以下が詳しい。
「『なにか職業が欲しかった』
ままならぬ体と応募生活20年の果てに」
■https://book.asahi.com/article/14960687
本書は、
「『本を読みたくても、
読むことができない。』
さまざま理由から、
読書を諦めている人がいることを
ご存知でしょうか。
他人事ではなく、
自分にも降りかかる問題として、
『プリントディスアビリティ』の問題を、
知っていただきたいと思います。
まずは知ることが、
みんなが本を読むのに困らない、
『読書バリアフリー』環境を目指す、
第一歩です。」
という文章から始まる。
読書をバリアフリーにする
換言すれば、
だれもが読書にアクセスできる
環境をつくること──
そのためには
「点字図書、録音図書、
大活字本など」を広げることが
必要であると述べている(p.Ⅷ)。
そのなかでも本書では
「大活字本」にフィーチャーし、
「読書バリアフリー」との関係が
詳細に書かれている。
本書の構成は
以下の通りである。
まず「読書バリアフリー」の説明と
その経緯、今後の展望が述べられ(第1章)
「バリアフリー資料」の種類や
特性が紹介され(第2章)
それに続き具体的な資料として
「大活字本」の歴史(第3章)や
出版の現状と展望(第4章)が語られたのちに
活用の実際を図書館などの
現場を通して説明されている(第5章)。
最後にもうひとつのテーマである
電子書籍への期待が綴られている(第6章)。
正直なところ、
市川氏の受賞がなかったら、
本書と出会わなければ
「読書バリアフリー」という言葉にも
出会わなかっただろう。
さらに
「読書バリアフリー法」も知らなかった。
(=視覚障害者等の
読書環境の整備の推進に関する法律)
障害者差別解消法や著作権法、
ICT機器との関係が整理でき、
理解を深めることに繋がった一冊である。
まずは「知ること」
──知識は認識を変える。
そして、
真に認識を変えるためには
行動が必要である。
学校事務職員としては、
学校教育にかかる部分に言及しておこう。
視覚障害者だけではなく
発達障害者にも
「読書バリアフリー」の必要性は高い。
「ディスレクシア(読字障害)」により、
読みづらさを
感じているひともいる(pp.Ⅳ-Ⅴ)。
■https://www.npo-edge.jp/whats-dyslexia/
いままで勤務してきた学校でも
ディスレクシアとされている子どもがいた。
たとえば、学校図書館の利用がある。
本書によれば、
バリアフリー資料の所蔵状況として
「点字図書」は
小学校で42.5%、中学校では19.6%
「大活字本」のそれは15.5%と16.5%。
(文部科学省調査2021年)
■https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1410430_00001.htm
本書では触れていないが、
「大活字本」より「点字図書」のほうが
割合として高い理由は、
総合的な学習の時間で
福祉領域を扱う学校が多く
そのときに「点字図書」の実際を
体験することにあるのかもしれない。
学校図書館の蔵書管理や購入を
司書教諭や図書館司書とともに担当する
学校事務職員であるが、
正直なところ勤務校に
これらの本が所蔵されているのか、
直ぐには答えられない。
しかも経験から購入した記憶もない。
夏休み明けの「宿題」をいただいた。
まずは「知ること」から行動に移そう。
わたしの読書歴は
まだ人生の半分でしかない(20年)。
活字が読めない(読みたくない)
未成年期には2冊しか読んだ記憶がない。
その後、
20歳を過ぎたころ読書に目覚め、
現在までには2,000冊くらい読んだと思う。
視力は落ちてきたが、
まだまだ矯正視力に頼らずに読書ができる。
このことは
だれもが当たり前にできていること──
そうではないと本書は語りかけてくる。
それを「幸せ」であると享受するのではなく、
その「幸せ」にだれもが到達できるように
「誰一人取り残されない」(p.128)
読書環境を整えていくことを求めている。
市川氏は
20年の応募生活を経て受賞し、
わたしも
20年の準備期間(?)を経て
読書生活を手にした。
読書バリアフリー法が成立して5年目──
あと15年が必要……、
などといっている場合ではない。
「本の飢餓(Book Famine)」
「読書の飢餓」は深刻である。
「視覚障害者が利用しやすい様式の書籍を
入手できる割合は、先進国でも7%程度、
発展途上国にあっては1%にも満たない」
と紹介されていた(pp.Ⅲ-Ⅳ)。
「読書バリアフリー」への取組は急務である。
市川氏の受賞を予感し、
それに合わせて刊行をめざしたかのような
そんなタイミング(7月20日発売)で
本書が世に出たことは
偶然ではなく必然なんだろう。
『ハンチバック』が注目されているいまこそ
社会を動かすチャンスであるともいえる。
本書がその促進を担うことは間違いない。
編集担当・小玉瞭平さま、
ご恵贈ありがとうございます。
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#本の飢餓
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