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「道徳」の攻略法4選【教員 担任】

「今から道徳心を学びましょう」

と銘打って、本を読んで、道徳心を学ぼうとするところに違和感を覚えます。

私が生徒なら「50分椅子に座っていなさい。道徳心を考えましょう。」という先生の無言のメッセージに道徳心の無さを感じてしまいます。

ましてや50分かけた道徳の授業の結論が「ありがとうの大切さを知る」だったりするのです。

「ごめん。知ってます。 先生ありがとう。」


現在、小学校や中学校では、道徳の授業が教科化されています。〇曜日の ×時間目に週1回行う 定例の道徳があるのです。

定例で”徳”を学ぶ機会が設定され、生徒のマインドを変えていこう、心を育てていこうという目的です。

この、”定例”というシステムがよくない。

大人の世界では考えられません。何かマインドを変えたいと思ったら自分が本を買って読んだり、自分が習い事を始めてみたり、自分がセミナーに参加したりすることをします。

学びたい先生も自分で選びます。かかる費用も自分の財布から出します。自腹を切って習いにきている人は一生懸命です。

マインドを変えようと思うのなら、”自分が” リスクをとって動くことです。

「今から、マインドを変えます。では本を読みましょう。」という受け身の道徳の授業ではマインドは変わりません。

■生徒は道徳の授業が嫌い。

僕は、この4月から新しい学校に赴任し、1年生の担任を持っています。
初道徳前の休み時間中の 生徒 A 君の発言。

「次、道徳かー。あんなん、意味ないやん。」

まだ道徳の授業を中学校で1度もしていないのに、その言いぐさです。小学校のとき、道徳の時間が苦痛だった証拠です。

そんな生徒も感想の欄に「〇〇の大切さに気付くことができました。」と書いているのです。うーん。なんとも言えないモヤモヤ感。


小学校の先生も、中学校の先生も、教科化された道徳に負担を感じています。

「1年間で、最低35種類の道徳の授業を絶対にしなさい。」と文部科学省からの指示に、上手に従うことが大切です。

せっかくなら、生徒に「今日の道徳おもろかったわ!」と言われるような授業をしたい!

私は、生徒に「授業を受けて良かったな」「何か新しい発見があったな。」と感じてほしいという思いで、道徳の授業を工夫してきました。

アンチ道徳の私が考える「道徳の授業の攻略法」を4つ、この記事に書きました。

どの教材でも適用可です。


❶旬な内容を行う。

旬の話題で道徳の授業を行うことが、生徒の心を動かすコツです。

生徒の心の状態にあった教材を行うことが、道徳授業の大前提です。

3年生の12月に、部活に関する友情の道徳をしても、生徒の心は動きません。部活を既に引退している上に、生徒の気持ちは受験モードだからです。

昨年、「マルクス=レーム。義足のスーパーアスリート」という道徳の授業をしました。


義足をつけているレーム選手は走り幅跳びの選手です。彼はパラリンピックではなく、健常者と同じ大会に出て、好成績を残しました。

全世界の四肢に障がいのある人々は、レーム選手の活躍に勇気をもらいました。「義足の人間でも、健常者に負けないという気持ちに感動した。」

が、しかし。記録を残せたのはレーム選手の力ではなく、義足のカーボンの弾力性によるものではないかと、物議をかもしたのです。

物議をかもした結果、レーム選手は・・・

マルクス=レーム。義足のスーパーアスリート

この授業をしたのは2022年2月に行われた北京オリンピックの高梨沙羅さんのスキージャンプ失格のニュースがあった、タイミングです。

スポーツ選手の努力と苦悩、公平さを保つためのルールということを考えるには抜群のタイミングでした。

個人的には高梨さんの失格はかわいそうという思いがありますが、高梨さんだけを擁護すると、ルールを守っていた他の選手がかわいそうということにもなります。難しい問題です。

そもそも、定例で道徳を行うというシステムに欠陥がありますが、少しでも旬な話題の道徳、生徒の心の状況にあった教材を選んで、授業をすることが大切だと思います。

学年打ち合わせで、道徳の時間にどんな教材を行うかをしっかり考えることが、めちゃくちゃ重要。

もし、旬なタイミングがなければ、道徳の授業を無理やりしない方がいいです。通常授業をした方が生徒のためになるからです。

「道徳の授業を仕方なくやっている」という教師の気持ちを、生徒は感じ取ります。


❷ワークシートは用意しない。

道徳で使われるワークシートは、まさに出来レース。

上のようなワークシートを配布された生徒は、げんなりします。

「今日はこういう流れで進んでいくのか。」

学ばせたい道徳心までのレースが出来上がっているのです。シートをもらった瞬間、面白味がなくなるでしょう。国語のテストっぽいですしね。

Q 花子の一言で太郎はなぜ帰ってしまったのだろうか?
A いやだったから。

道徳のワークシートあるある1

これで終わりです。何の学びもありません。

また物語を読んだ瞬間に、いきなり感想を先に書いておく生徒もいます。

「今日の授業を受けて、〇〇が大切だと思いました。」

道徳のワークシートあるある2

出来レースシートのせいで、生徒のやる気をそいでしまってはもったいない。

しかし、道徳の授業の評価をせねばならないので、何かしら生徒に文章を書かせる必要はあります。

ワークシートは白紙で。

そこで、タイトルと名前欄以外白紙の紙を配ります。

授業の展開とともに、生徒が白紙の状態からワークシートを完成させていくのです。

生徒の面白い発言や、キーとなる発言、クラスの雰囲気、授業の流れを読んで、教師が瞬間 瞬間に発問を考えます。

ワークシートの一番上に「1,太郎は〇〇のとき、どのような感じたか?」と書いて、自分の考えを書きましょう。

発問をはじめから記載しない。生徒に書かせる。

ときには、脱線もあり。

はじめから用意していた発問を行うときもありますが、それよりも、授業の自然な流れで生まれた考えさせられる発問を行うことができます。

教師のワークシートの準備の手間も省けるので(一度に大量のワークシートを刷るだけでOK) 、僕はここ最近、ほぼ白紙の紙で勝負しています。


❸パワーポイントは資料を見せるときだけ使う

前述の ❷ワークシートは用意しない と似ている内容です。

最近は授業では、パワーポイントのスライドを見せることが多いです。

パワポは下のような資料の提示や、動画を再生するために使うのが有効です。

いじめの4層構造(いじめの授業で提示することが多い資料)


反対に、道徳の伝えたいことや結論をパワポのスライドに盛り込むことは、僕は好きではありません。

パワポで見せるメッセージ=あらかじめ用意していたメッセージ となるわけです。生徒の考えたことや発言をガン無視で伝えるメッセージです。

はじめから、こういう流れで行うつもりだったんだなという”出来レース感”を生徒に感じさせてしまいますね。


❹戦術より戦略を考える。

〇〇さんは××のとき、どのように感じたのだろうか?

道徳の発問あるある

この手の質問は、生徒は100万回答えてきています。

読み物教材を扱う上で、どのようなタイミングで、どのような発問をすることがいいのだろうか。

道徳の授業に向けて、戦う術(すべ)を考えている先生へ。

戦術より戦略を考えましょう。戦いを省略するのです。


以前、”忍耐強く努力する難しさ”がテーマの読み物教材において、テニスボールを2個積み上げるワークをしました。

テニスボールを2個積み上げるのは難しい。忍耐強さがいります。

はじめは「こんなん、無理やろ」と思いますが、いつのまにか、教室が静かになり、全員が集中するのです。そして、2個積み上げる生徒が何人か出てきます。

無理だと諦めようとしても、となりの席の人のチャレンジしている姿を見て、「もうちょっとやってみよう」と思えるのです。


「〇〇選手は忍耐強く努力できたのはなぜだろう?」という発問の答えを考えるよりも、簡易的に忍耐強さの体験をした方が生徒も目新しさがあって楽しいです。

良い道徳の授業をするための戦術を考えることも必要ですが、発問や発表をするというフィールドに立たず、別の戦略を考えることが、おもしろい道徳の授業のポイントだと感じています。


■教師の仕事はプロデュースすること。

アンチ道徳の私ですが、道徳的なことは生徒に教えるべきだと思っています。ただし、50分間の授業内だけで行うのは至難の業だという考えです。

心が動く体験をしたときに、人のマインドは変わる。

2週間努力し続けてきた合唱コンクールで、金賞を獲れたとき(または獲れなかったとき)の指揮者・伴奏者からクラスメイトへの涙のメッセージ。


部活動の総体で引退が決まった負け試合。
最後のミーティングで、顧問の先生から受け取る言葉。


卒業式の最後のホームルーム。

生徒の心が動く”体験”を、プロデュースすることこそ、本当の道徳教育だと、僕は考えています。


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