見出し画像

81歳のおばあちゃんからの長文LINEと、絶望の成人式の話

書籍を出版して3日目。わたしがAmazonの低評価レビューで落ち込んでいたころ、おばあちゃんから長いLINEが送られてきた。

どうもわたしの本が届いたそうで、8月31日に発売したばかりなのに、9月2日の今日にはもう読みおえて感想を送ってくれたみたいだ。

画像1

81歳のおばあちゃんが本を読んでいるところはあまり見たことがない。

もう老眼で目もあまり良くないし、きっと普段は畑仕事で忙しいだろうに、2日かけて何度も読んでくれて、そのうえ慣れないスマホで一生懸命LINEまで打ってくれたであろう姿を想像すると目頭がカッと熱くなる。

しかし、ひとつ気になることがあった。

「もっと優しく接してあげればよかったよ」


LINEには、そんなことが書いてあって、はて、自分は十分に優しく接してもらっているはずなのに、なんか冷たく当たられたことなんぞあったっけ…? と首を捻るもなにも思い出せない。

初孫で大層可愛がられたし、欲しいものは結構買ってもらえていたと思う。実家から徒歩20分、車で5分のところにおばあちゃんちはあるので、小さいころから毎日のように我が物顔でおばあちゃんちの敷居を跨いでいた。

ふたりで山をこえて鎌倉まで行ったこともあるし、アイスクリームを買って、おばあちゃんが「お釣りはいらないよ」と言ったときは子どもながらに誇らしかった。七里ヶ浜で拾った桜貝は未だに宝箱のなかにしまってある。

大学受験期はおばあちゃんちに住んでいたので、半年近くすべての面倒を見てもらっていたし、友だちが泊まりに来ることになったときももてなしてくれた。

ただ、ひとつなにか思い当たるとしたら、成人式の日のことだ。

・・・

当時、アメリカに住む家族を置いて、大学受験のためにひとり日本に戻ってきたわたしは、「成人式の前撮り」というイベントにまわりが色めき立つなかで、頼れる両親もおらず、どうしたものかと途方に暮れていた。

成人式は地元で行うものなので、おばあちゃんに車を出してもらい、地元のオンディーヌで前撮りをすることになったのだが、なぜかいつも着物選びにおばあちゃんは着いてきてくれなかった。

他の子たちがお母さんを連れて楽しそうに着物選びをしているなかで、わたしはそれがすごく寂しくてたまらなかった。

ひとりで着物を選んでいる人ってなかなかいない。

みんな家族と「あなたはこの色が似合う」とか何枚も着物をあてて鏡を見ながらキャッキャと楽しそうに選んでいるのに、わたしはひとりで黙々と選んでいたので、スタッフさんにも「おばあさまはお見えにならないんですか…?」と心配されていた。

ええ、お見えにならないんです。なぜか。

成人式の前撮りというのは、課金次第で豪華な写真が撮れる。枚数も増やすことができる。でも、おばあちゃんに相談してみても、「どうせ見返さないんだから、そんなにいらないでしょ」と言われ、頑なにオンディーヌに来ない姿勢も含めて、ある日わたしは爆発してしまった。

「おばあちゃんは、わたしに興味がないんだ……!」


無性に悲しくてわんわん泣いた。

一生に一度の成人式。一番仲がよかった親友のママが気合いを入れて豪華なコースを選んで撮影をしたという話を聞いたあとだったからかもしれない。家族が会える場所にいなかったこともあるのかもしれない。

「成人を迎えること」ってもっと大事なことだと思ってた。「大きくなったねぇ」「綺麗になったねぇ」と目を細めて喜んでくれると思っていたのに。

誰もわたしの晴れ姿なんざ見たくないんだ。じゃあわたしは何のために今着物を着てるんだ? と途端にどうでも良くなって部屋に閉じこもった。

するとおばあちゃんも同じように目を赤くして、「ごめんねぇ、おばあちゃんはみっともないから、お店に行きたくなかったのよ」と言った。

そんなこと、どうでもよかった。

おばあちゃんがみっともないとか訳わからん。おばあちゃんがいないほうがわたしはみっともないんだから、細かいこと気にせずに着いてきてよ! と全然納得ができなかった。

・・・

おばあちゃんからLINEをもらってからしばらくして、家に電話がかかってきた。母が取ると、「ゆきの本を、友だちにもあげたいからもう何冊か注文してほしい」とのことだったらしく、嬉しくなったと同時に、LINEの意味深な一文について聞きたくなったので電話を代わってもらった。

「わたし、ずっと優しくされていると思ってたけど、あれって何のこと?」

「いっぱいあるよ。ほら、成人式のこととか…」

やっぱり! あの成人式のことを、わたしよりもおばあちゃんのほうがずっと引きずっていたのだ。母に聞くと、おばあちゃんはことあるごとに成人式の話をしてはため息をつくらしい。

時代背景もあってか、愛情たっぷりに育てられたわけでもなかったおばあちゃんは、自分のことも貶すし、素直になれずになんだか人に厳しくしてしまうらしい。

わたし好きなものなんでも買ってもらってたし、「湯葉が好き」と言うと一週間毎日湯葉のときもあったぐらい、ベタベタに甘やかされてると思うんだけどな。

「ほかにも、受験期にあまりにのんびりしているから、『そんなんじゃ落ちるよ!』と言ったこととか、『声優なんて一握りしかなれないよ!』と言ったこととか……」

……ごめん、そっちはマジで覚えてなかった。

でも、こんなにも赤裸々に話してくれるおばあちゃんはすごく珍しい。

最後に、「ゆきの本に『自分の思いを素直に書くことが大事』だと書いてあって、それは本当にそのとおりだと思ったの」と言われて、あぁ、そういうことだったのか! と腑に落ちた。

生まれてこの方ずーっと頑なに自分のスタンスを崩さなかったおばあちゃんが、わたしの言葉でちょっとだけ素直になってくれたのだ。

その出来事が、昨日まで散々落ち込んでた「Amazonの低評価レビュー事件」をバァンと吹っ飛ばした。

おばあちゃんは別に「書きたいけど書けない」という人ではない。

けれど、そんな人にもちゃんと届いて、しかもすぐに実行してくれたことが嬉しい。ましてや81歳の価値観を変えるのはきっと容易いことではない。

わたしの本というより「孫の本」というところが大きいかもしれないけど、それだけでも眠たい目を擦りながら書いた甲斐がある。

なにより、わたしが素直に思いを書いたものだったから、素直に受け取って素直に行動に移してもらえることの、なんと尊いこと。

わたしたちは、なんでも素直に書いていい。そして、素直に気持ちを伝えていい。もちろんいいことであればなおさら。

そしてわたしは「結局成人式の写真、全然見返してないわ」とこれから会うたびにおばあちゃんに伝えつづけようと思う。

画像2

処女作『書く習慣』発売中です。

誰でもなんでもネットで自由に自分の思いを吐露できる時代。

「なにを書いたらいいのかわからない」「人に見せるのが怖い」という人に向けて、「書くことが好きになる」本を書きました。

書くことへのハードルをうんと下げて、皆さんの一歩を後押しします。

ぜひお手に取っていただけたら嬉しいです!


サポートは牛乳ぷりん貯金しましゅ