カラオケで君の曲、歌えないんだよね
友人とカラオケに行った。彼女の好きなアイドルがあるカラオケ店とコラボしていたため、コラボドリンクとその特典目当てで行くことにしたのだ。フリータイム。3時間ほどの時間があった。
あまりにも頼んだドリンクが来るまで時間がかかっていたので、最近練習している曲を入れて歌っていたが、1番練習をしている箇所で店員が来た。カラオケあるあるだよね。とりあえず歌うのをやめてドリンクを飲んだ。サイン入りのカードも引けた。嬉しそうな友人を見て、こちらも嬉しくなる。
さあ、やっと曲が入れられる。何にしよう、と思っていた。友人はまず、好きなアイドルの本人映像の曲を入れた。それなら私も好きなアーティストの曲を入れよう。歌手名からまず1番好きなバンドの名前を入れた。曲一覧が出てくる。ああ、この曲いいよね。音域も確か合っているはず。うわ、このMV最高なんだよな。本人映像なんだ。え、待ってこれライブ映像と音源なの?うわー、、、、
これにしようかな、と曲のページを開く。一応全歌詞を開く。もちろんのことだが全歌詞わかる。頭の中でイントロが流れ始めて、ライブの光景が浮かび出す。ボーカルがマイクとギターを持って客席に向かってなんとも艶やかな歌声で歌う。その声が頭に反響する。
その時、うーん、と思ってしまった。その曲のページを閉じる。
そうだ、ジャニーズの曲の方がいい。音域も高いし歌いやすい。歌手名から私がこの世界で1番好きなアイドルの名前を検索する。大好きな曲たちがあいうえお順にずらりと並んだ。あ、から順に眺める。ああ、これライブであの人がセリフ言ったやつだ。あ、これ周年メドレーでかっこよくアレンジされてたやつ。本人映像ないのか、残念だな。
これにしようかな、と思って曲ページも開く、これも例によって全歌詞を開くが、当たり前のように全部わかる。このセリフ、自担が言ったやつだ。彼はここでこんなパフォーマンスしてたな。心なしか歌詞ページの歌詞が歌割り通りにメンバーカラーに染まっている気がした。そして、彼の青色の文字だけ踊っているようだった。彼の歌声がどんどん脳裏に響く。歌声から彼のひらめく衣装が見える。きらめく汗が見える。マイクを持ち、ファンを指さす綺麗な指先。汗をかいても崩れない綺麗な顔と、長い睫毛。汗で張り付く綺麗な髪。彼の中性的な高い声が、耳の奥に響く。
ダメだ、歌えない。私、好きな人の曲、歌えないな。
好きな人の曲はもれなく好きな曲だ。だから好きな人が歌わないと意味がない。そう思ってしまう。私は少なくとも音痴ではない。でも、あの人の声ではない。でも、私がもし好きなバンドのボーカルが出す艶やかな声が出せたとしても、大好きなアイドルの彼が出す中性的でかわいい声が出せたとしても、きっと私は彼らの曲は歌えない。
あなたの歌は、あなたの声で聴きたいのだ。あなたが歌うから、その歌は意味を持つ。歌として形作られ、私の前に現れる。
また、ライブで聴きたいな。あなたの声と、あなたしか歌えない「歌」を。そう思って私は、彼らとは全く関係のない女性アーティストの曲を入れた。