006_餓鬼がひとり、駅のホームで通過を待つ
駅のホームで電車を待つとき、僕は必ず一番前に立つ。
一番、電車が通過した時の風を感じられるからだ。
一瞬ではあるが、電車に轢かれるかのような、そんな感覚を味わえる。
僕は日常で"死"を経験したいのだ。
もちろん、心の底から死にたいとは思っていないが。
初めに死を連想したのは、小学生の頃。
工事現場で2メートル強の高さから落ちた時、なんとも言えない"死"の感覚を味わった。
ただその時は打撲が痛くてそれどころではなかったが。
ともかく、僕はその"死"というものを探し始めた。
家の屋根から飛び降りたり。
彫刻刀で指を切りつけたり。
睡眠薬を大量に飲んだり。
ただ、中高生の頃にこんなことをやっていれば両親や兄弟、親族が異変に気づく。
僕はそれなりにいい子ではあったので、彼らに心配をかけたくなかった。
そしてついに心配をかけずにたどり着いたものが電車だ。
僕は大学に行くため、2回電車を乗り換える。
つまり往復で4回、あの感覚を味わえるわけだ。
あのふわっとした感覚がたまらない。
そのあとに来る電流がたまらない。
通過なのに、ホームギリギリで待っている方を見かけても声をかけないでください。
僕のこの感覚を邪魔しないでください。
よろしくお願いします。
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