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服薬時、あるいは服薬前、あるいは発作後、あるいは発作前に書きなぐった文章。
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#ノンフィクション

23_瞬

消えてしまいたいという願望が心の奥底で染まっている。
どんなに楽しい時間を過ごしていても一瞬で消え失せる。
後々に思い出したとしても、どこか断片的で、どこか色褪せて。
もう二度と同じような同じ数値のような喜びは訪れない。
歳を重ねるにつれて、その数値の最大感受性が下がっている。
やがてその楽しい時間が今の自分との比較対象になって、
自分に牙をむき始めてしまう。

この慢性的な辛さ、時に発作が起きる

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22_贅

職歴のない無職になりたかった。
というまるで贅沢な悩みをボヤいてみる。

両親も役所も企業もみんな経験がない奴よりもマシと言ってくる。
それぞれの損得はどうあれ、自分も納得している部分もある。
あくまで部分的な納得であり、ボヤしてしまう事に変わりはない。

次の職を探すとき、当然ながら前職の事を嫌でも思い出さねばならない。
自分のミス、上司の理不尽な怒声、同僚からの押し付け、後輩からの陰口。
それ

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21_廻

「時間が解決してくれる」と言う言葉がある。
この言葉を実感できる頃、僕は僕として生きているのだろうか。

学んでも、働いても、訓練をしても。
心の奥底、脳の中心に刻まれた負の感情が枯れる事は一時もない。
薬で誤魔化す毎日、力技でせき止めたような感じ。

誰にだって悲しい事辛い事はある。分かっているそんなこと。
お前はまだ食えている、住める場所もある、だから幸せだろうと。
食えない人に比べれば、住め

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20_比

「他人と比較してもしょうがない」と何度も何度も心に刻もうとしている。
否が応でも見えてしまう同年代の生活。
子供がいる。
結婚している。
恋人がいる。
部下がいる。
同僚がいる。
フルタイムで働いている。
言い合える友人がいる。
馬鹿にしてくる奴がいる。

今の僕には何もない。
ただ、生かされている。

障害を隠しながら、会社から要らないと言われるまで社員としてしがみついた。
おかげで手当てがもら

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19_呆

脳がトロンとした状態は言語化したらどうなるんだろう。
効き始めた今この時、キーボードを叩いてみる。

もう不安からきているか分からない頭痛みたいなチクチクとした痛みのような脳内の血液が巡っていると分かる感じで、それが冷たい感じ。
前にも話したかもしれないけど、それはここだったか、別の所か知らんけど。
そんなことはどうでもいいか。
とにかく、呆けているのに不思議と頭の中がすっきりしているんだよね。

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18_変

「いかにして楽に死ぬことができるだろうか」
と誰もが一度は思ったことがある言葉。
検索を書ければ、ご丁寧にこころの健康相談が一番上に出てくる。
その網を掻い潜って、見つけたのは宗教やらスピリチュアルやら胡散臭いもの。
「辛くとも生きるべき」だとか。
「生きた先に光がある」だとか。
自分が求めている科学的な答えは見つからないし、最近では楽に死なれては困る人達がいるのではないかと思う事も多くなってしま

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17_声

PTSDと正確に診断されたわけではないけれど、僕にはどうしようもなくなってしまう弱点が存在する。
それが声。主に罵声や怒声に使われる強い声。
聞こえただけでもう身体が震える、心拍が上がる、頭が痛くなるなどなど。
しかも内容はどんな事でもだ。冗談を冗談と捉えられない性格が災いして、何でも反応してしまう。
街を歩けば必ず誰かの罵声や怒声が聞こえてしまう。
工事で先輩らしき人が後輩に「どんくさいんじゃ!

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16_怠

薬を飲み始めた頃、症状におびえていた頃、効果を実感したら、まるで幸せの魔法を手にした気分だった。大きなマイナスが小さなマイナスになっただけなのに。
「現代人は心が病みやすい」という記事を鵜呑みにして、今の自分はちょっと休憩が必要なんだと、だから安定剤を飲むのも普通なんだと、思っていたら、身体が折り返し地点を超えてしまった。
周りはもう子供がいたり、結婚したり、仕事で上司になったり、いやそもそも自立

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15_抗

体調の波が良い方向に傾けば、自然と薬の量は減っていく。
その度に「断薬してみよう」とか考えてしまう。

安定剤と言うのは異常で不審な者をまるで普通かのように見せてくれる薬なので、
長期的に服用しているとどうしても副作用が気になってしまう。
私が飲んでいる主な副作用は眠気とふらつきだ。
ナルコレプシーほどではないが、抗えないほどの眠気に襲われ、仕事どころか思うような会話が、作業ができない。
立ち仕事

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14_縫

症状が起こり始めた頃、ぬいぐるみを肌身離さず持っていた。
どこかへ出かけるという事すらできなかったので、家の中で常に一緒だった。
小さい子供がおままごとをしている時に、自分の子供役としてぬいぐるみを使っているのをイメージしてもらえれば分かりやすいだろうか。

当然、ぬいぐるみと会話する事は出来た。
もちろん声とか音はないが、心の中で会話ができたのだ。
外に出れない僕にとって人と関わる唯一の方法。

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13_増

「1日1錠を目安にしてください。一応、2錠までは飲めます」
今飲んでいる薬を処方された頃、担当医に言われた言葉だ。

この薬に出会ってから、発作が起こる事はなくなった。
発作予兆が起きた時点で服用すれば、2,30分もすれば落ち着いてくるのだ。
副作用として足元がフラフラしたり、集中力が落ちてしまうが、死を連想してしまう発作が起こるよりもはるかにましだ。

しかし、人間と言うものは欲深いもので、次の

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12_定

薬が効いてくるまで、安心感と焦燥感が襲ってくる。
やがてはまるで安心感が勝るように錯覚するわけだが、
それまでは焦燥感のせいで余計な事をしてしまう。

無駄な思いつきを調べてしまったり、
クリア済みのゲームをやってしまったり、
空腹でもないのに冷蔵庫を開けてしまったり、
訳の分からない文章を書いてしまったり。

さっさと布団に入って横になってしまえばいいのに、
電気を消すと謎の恐怖感が襲ってきてし

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11_滞

「四肢が腐るぞ」
というセリフが頭に浮かんでいる。
確か、政を行う人が民に還元しないせいで国がダメになるって話。

私は臓器でもなく、四肢でもない。
精々、四肢に血液を送る一粒の赤血球ぐらいの存在だ。
勝手に生まれていて、勝手に壊れていて。
いなくなっても誰も困らない、誰も気がつかない。

臓器に向かって、四肢に向かって、「俺がいなきゃ腐るぞ」と言う私。
そんな妄想が毎日、自分に入り込んでくる。

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10_毛

「目つきが変だよ」

そう言われてから睫毛を抜くのをやめた。
まだ外見を気にするほどの頃に指摘されたから、今はたまにしかやっていない。

一般的に、抜毛症というのは髪の毛が主らしいが、僕はそうではない。
僕の場合は髭や眉毛、脛毛など太い毛がそこらじゅうにあるからだ。
もし、僕が女性か毛が薄い男性であれば間違いなく髪の毛を抜いているはずだ。

歳を取ってくると肌の艶というか脂がなくなってくる。
その

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