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呼吸を思い出す!ブリーディングアウェアネスの奇跡
このたび、IAMIミュージックアカデミーを日本で再開することになりました。イリヤンも私も今からとても楽しみにしています。
今回はIAMIアカデミーでしか体験できないブリーディングアウェアネスのレッスンについて書いていきます。
ブリーディングアウェアネスのレッスンを一度体験すると、呼吸に対する概念は覆ると思います。自分の体の中にこんなにも容量があったんだ!こんな機能が眠っていたんだ!という事実に気づきます。
呼吸について悩みがある方、呼吸を見直したい方、音楽家はもちろん、そうでない方にも是非知っていただけたらと思います。
ブリーディングアウェアネスとは
多くの人にとっては始めて聞く言葉だと思います。
ブリーディングアウェアネス(Breathing Awareness)とは、1950年代に、カール・スタウによって発明されたブリーディングコーディネーション(Breading Coordination) を元に、それをイリヤンが独自に発展させたものです。
当時は、オペラ歌手、サックス奏者(デイヴィッド・サンボーン)、オリンピックの金メダリストまで、多くの人たちがカール・スタウを救いの神と呼ぶほど、彼の呼吸術は人気だったそうです。
それだけでなく、肺気腫や、気管支炎、肺炎、喘息などに悩む人々を治癒させたりと、医療界でも異才を放つ存在だったそうです。
そんなカール・スタウの元で20年間を共に過ごした、数少ない彼の後継者であるリン・マーティンから、イリヤンはブリーディングコーディネーションを学びました。学んだと言っても、その指導方法や施術方法を、直接学んだわけではないようです。というのも、リン・マーティン自身が、カール・スタウのことを尋ねられて、インタビューでこう答えているからです。
「彼は口数が多いのに、正確には何をしているのかと訊かれると、説明できなかったのです。その後、彼のやっていたことができた人はひとりもいない。」
かつてリン・マーティンがそうだったように、イリヤン自身も、彼女のレッスンを受けて自分が体験したことを、独自で研究、解明し、自分でもそのようなことができるようになるまでに感性や技術を磨いていった、ということのようです。
実際にイリヤンもカール・スタウと同様に、「僕も自分がやってることを言語化することはできない。」と言っています。解剖学、生理学などの科学的な知識をベースに、あとは本能やインスピレーションを頼りにレッスンをしているそうです。
そんな一見すると怪しくもとれるブリーディングコーディネーションなのですが、実際にX線写真からは、施術後、肺活量が大幅に増加していることが明らかになったり、X線フィルムによって、活発に動き始めた横隔膜の映像などが記録されたりと、科学的にもその効果は証明されています。
では、実際のレッスンではどんなことをするのでしょうか。
神秘体験
レッスンでは、横になるスタイルと、椅子に座るスタイルがあり、生徒さんの状況によって変わります。初めてのレッスンでは横になることが多いです。
生徒さんはイリヤンに完全に身を委ねてリラックスした状態で臨みます。眠る前のボーッとした状態くらいにまでリラックスしていきます。まずこれができないとレッスンを始めることができません。初めての人は慣れるまでに少し時間がかかるかもしれませんが、イリヤンが誘導していくので信頼して身を任せて下さい。
そこから呼吸のエクササイズに入っていきます。エクササイズでは数字を数えます。1〜10までがワンセットです。そのワンセットを繰り返しながら数字を声に出して数えていきます。(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。)あとはそれを繰り返していきます。
そのときのポイントは、ささやくように、そして低めのトーンで胸に響かせるように声を出すことです。唇は活発に動かすのではなく、少し怠けたような感じにします。
数字を数えることに意識を向けることで、他のことに意識を取られることなく、且つ、眠ってしまうこともなく、自分の呼吸に深く入っていくことができます。
まずは呼吸のサイクルに慣れることから始めます。ここで大事なことは、体から息が抜け切るまで息を吐き切るということです。息を吐いているときは数字を数え続けています。
完全に体から息が抜け切ると、胸骨のあたりから神経を通じて脳へと、吸気を促す指令が送られます。
無理に息を吸おうとしなくても、酸素を欲して衝動的に体は息を取り込みます。それが自然な呼吸のサイクルです。呼吸において最も大事なことは、息を吸うことではありません。息を吐き切ることです。
イリヤンは生徒さんの胸郭をほぐすために体を摩ったり、同様に背中も緩めていきます。胸骨を軽く叩いて、呼吸のウェーブを促進し、呼吸を自然なリズムへと導いていきます。
その間も、生徒さんはひたすら数字を数えながら、呼吸の中に居続けます。
最初は一息で20くらいまでを数えるところから始めて、少しずつ呼吸を深めていきます。
一息で70、80と数えられるまでになってくると、体の中に大きなウェーブが湧き起こるように、呼吸が自然と起こっていくのが感じられるようになっていきます。
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呼吸を思い出す
一般的に私たちが呼吸をしているとき、横隔膜の可動域はたったの10%と言われています。それはつまり、私たちの体が浅い呼吸に慣れ過ぎているということです。また、人目を気にしたり、不安や恐れから来るストレス、緊張などが原因で、横隔膜の可動域や肺活量へさらなる制限がかかっています。
つまり、横隔膜の筋肉は、深く呼吸していたころの記憶をすっかり失っている状態にあるのです。
そこでイリヤンは、体を摩ったり、叩いたり、ゆすったりしながら、長い眠りの中にある、横隔膜の筋肉を呼び覚ます、ということをしているのだそうです。
また、浅い呼吸によって、凝り固まってしまった胸の周りの筋肉や、関節を柔らかくほぐして、横隔膜の運動を阻害しないようにする、ということも同時に行なっているようです。
そのようにして、横隔膜の可動域を50%〜70%まで広げることができれば、心臓などへの負担は減り、体を効率良く使えるようになります。それはつまり、最小限の労力で体が機能を果たせるようになる、ということです。
またレッスンを数回重ねていくと、横隔膜は次第にその可動域に慣れて、深く楽な呼吸が自然にできるようになっていきます。
レッスンを終えた生徒さんたちの反応
呼吸のエクササイズを終えた生徒さんには、そのあとすぐに演奏をしてもらいます。
自分の体が自分のものではないみたい。
体が軽々と動く。
指がよく回る。
息が長く保てるようになる。
息の圧や量が増える。
息の密度が濃くなる。
息の通りが良くなる。
サウンドが豊かになる。
力強い声が出る。
エクササイズを終えた生徒さんたちの反応です。みんなそれぞれに、嬉しい変化や発見があるようです。信じられない!といったような驚きの反応を見せる生徒さんもいます。
言葉では表現し切れない。“体験してみないとわからないこと” だけど、“体験したらわかること” と言っていた生徒さんもいました。
時代が変わる
この魔法のような呼吸術は、カール・スタウの突然の逝去によって、世の中からは忘れ去られた形になってしまいました。今現在も、この呼吸術を指導できる人はイリヤンを含めたごくわずかです。その理由は、時代背景によるところが大きいのかな、と思います。
彼が活躍していた1950〜1990年代というと、世の中は物質主義真っ只中。資格も持たない、医師免許もない、ただの呼吸マニアな彼のことを怪しく思う人たちもたくさんいたと思います。
イリヤンも言っているように、本能やインスピレーションを使わなければ、到底できない仕事です。アカデミックな世界とは、水と油のように、分かり合えない関係性があったのかもしれません。
人々が物質主義から徐々に解放されて、目に見えない世界を受け入れることができるようになっていくと、その関係性も変わっていくのではないかと思います。
呼吸とは学ぶものではありません。思い出していくものです。全ては私たちの中に存在しています。
ブリーディングアウェアネスが、多くの人たちにとって、自分の中に力を取り戻すきっかけになることを願っています。
最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。
今日も良い1日を😊