横隔膜は第2の心臓!
呼吸法は学ぶものではない。
声楽のレッスンでは必ず、なんらかの呼吸法を教わります。今回は、呼吸法についての私の思考です。
そもそも呼吸法を学ぶ目的ってなんでしょうか?
息を体にたくさん取り入れるため。そして息を利用してよく通る、力強い声を生み出すため。そんなところでしょうか。
呼吸法を学んだところで、それらの目的が果たせるとは思えませんが、それらが叶うと信じて疑わない人たちがたくさんいるようです。だからこそ、さまざまな呼吸法が流行ってきたんだと思います。
鼻から吸って、スーッと口から吐く。吸い込むときにお腹や背中を膨らませる。吐きながらお腹に力を入れる。何秒かけて吸って、何秒息を止めて、何秒かけて吐く。やり方は色々あると思いますが、こんな感じで教わったことのある人も多いのではないでしょうか。呼吸筋を鍛える人もいますね。
それはつまり、自分の呼吸を意図的に、コントロールしようとしていることです。自然ではありません。私たちにとって、呼吸とは本能です。息を吸うことは衝動です。本来、息を吐くにしても吸うにしても、体のどこか一部を意識的に働かせる必要はありません。訓練したり、鍛えたりして身につけるようなものでもありません。
私たちに必要なことは、呼吸法を学ぶことではなく、本来の呼吸のあり方に気づいていくことです。つまり、私たちに備わっている呼吸の機能を取り戻していくことです。私たちの多くは、自然な機能について知らないんですよね。それどころか、呼吸法を学ぶことによって、自然な機能を歪めていることにも気づいていません。
息をたくさん吸い込もうとすればするほど、呼吸は浅くなるものです。問題は息を十分に吸い込めないことではなく、息を吐き切れないことです。
それに、歌うために必要な息の量は、そこまで多くはありません。
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呼吸機能の低下
呼吸を語る上で欠かせない、呼吸のきっかけとも言える働きかけをするのが、横隔膜です。赤ちゃんがお母さんのお腹に宿ってから、まず最初に育つ臓器が心臓と横隔膜と言われています。それほどに横隔膜は人間の体全体の機能を掌る、大きな役割を担っています。
横隔膜の図です。肋骨の内部に、ドーム型に収まっています。思った以上に背中部分に多く広がっているのが分かりますよね。そして、横隔膜はビロ〜ンと広げると、なんと直径1メートル以上もあるそうです。
呼吸の際に、横隔膜が上下に運動する、というのは聞いたことがあると思います。そしてその横隔膜の上下運動に合わせて、肋骨も自在に広がったり狭まったりします。肋骨は本来、柔軟にしなやかに動くことができるんです。
ただ、多くの日本人は、肋骨の間の筋肉が固まっていて、肋骨が十分に可動していません。日本語の発語による影響や、ストレス社会で人目を気にする人が多いことなど、さまざまな理由が考えられます。
肋骨が十分に可動していない場合、横隔膜の上下運動に制限がかかってしまいます。その結果、息を吐き切ることができなくなり、呼吸が浅くなる、ということが起こります。私たちの呼吸機能は、社会生活のさまざまな影響を受けて低下している、ということです。
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歌手にとっての横隔膜
私はレッスンで横隔膜や喉の話をするとき、「ただ知っておくだけで良いのよ。」とよく言います。横隔膜がどんな形状で、体のどこに存在しているのか。そして、どんなふうに動くのか。それに伴って肋骨や肺がどのように動くのか。イメージできるかできないかでは大きく違います。
横隔膜の働きを知って、さて何をどうする?ということではなく、そのイメージができるかどうかが大事なポイントです。それが、私たちの体に備わっている機能に気づいていく、ということにもつながっていきます。
私たちが歌うとき、横隔膜は誰の力も借りず、自らのきっかけで、喉と結びついて動きます。横隔膜が、喉の筋肉や呼吸筋と結びついて働くことで、体は歌の楽器として成立します。喉と横隔膜がセットで働いてはじめて、歌うための仕事ができる、ということです。
喉と横隔膜は、別々の器官ではなくふたつでひとつの器官と捉える方が歌うときの感覚をイメージしやすいと思います。喉がよく働けば、横隔膜もよく働く。逆も然りです。
声を開放するための働きかけをしていくことで、自然と横隔膜の働きは良くなっていきます。それが、自然な呼吸の機能を取り戻していくことになるのです。
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ブリーディングアウェアネス(呼吸の気づき)
肋骨がほとんど可動しないほどに、筋肉が萎縮していて、声を開放することもままならない。そんな人には、ブリーディングアウェアネスという施術を用いて、呼吸の機能を高める方法もあります。
1970年ごろ、メトロポリタン歌劇場では、本番前の歌手たちはみな、舞台袖でこの施術を受けていたそうです。
どんなことをするかというと、まずは施術者が、横隔膜を刺激しながら自然な呼吸のリズムへと導いていきます。施術中は、数字を声を出して数えながら、息を吐き切る、ということを繰り返します。呼吸のサイクルに慣れてきたら、肋骨を整えながらその可動域を広げていきます。
生徒は施術者に身を委ねて、何もしようとせず、ただ呼吸を感じるだけです。呼吸がどんどん深くなっていくのが感じられるようになります。ブリーディングアウェアネスを体験すると、自分の体の機能がいかに制限されていたかが良く分かります。
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ブリーディングアウェアネスのレッスンはIAMIミュージックアカデミーで受講することができます。歌に限らず、全ての器楽奏者の方々に受講していただけます。
レッスンを受けると、眠っていた機能が呼び覚まされて、体が自然な呼吸を少しずつ思い出していきます。たった1回のレッスンで、呼吸に対する概念は覆ると思います。
呼吸とは学ぶものではありません。思い出すものです。
是非、今までに味わったことのない、不思議な感動を多くの人たちに体験していただけたらと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございます😊