Good Economics for Hard Times〜 絶望を希望に変える経済学
「貧乏人の経済学」を上梓し2019年度のノーベル経済学賞を受賞したバナジーとデュフロの新刊。原書が2019年の11月に刊行され、邦訳が2020年の4月刊行だからかなり早く邦訳されたのではないかと思う。彼らの受賞は研究の成果を含めてかなり早いということで話題になったが貧困をテーマとしていたことが後押ししたのかという評価が多かったが、この新刊はその成果をより深く多岐にわたって掘り下げられてものとなっていた。
書籍の帯にはこの著作の中で取り上げられている問題点を“貿易戦争” “社会格差” “移民” “環境破壊”の4つの側面で二極化する社会が直面する課題をどう解決していくのかについての著者の提言と位置付けている。個人的には日本という国で生活している為に社会格差と環境破壊には注目して、様々な言説を追いかけてはいたが、貿易戦争・移民については先の2つの問題との関連を含めて認識が弱かったのであるが、やはり、南北問題の視点を外すことはできないのだと再認識した。
この4つの問題は複雑に絡まり合っていて、特に環境破壊の側面から考えたときに南北において大きな問題を抱えている。環境破壊が自明の時にこれを生じせしめた経済活動をどう展開していくのか?がどうしても合意の難しい問題であり、その利害を巡っての環境問題の認識に基づく世界的な活動を遅滞させている。この著作でも米国で盛んに議論になっているグリーンニューディールについては懐疑的であるし、炭素税の問題についても合意形成は難しいことを考えた時に一つの章を割いて論じられている「成長の終焉?」は議論の俎上に載せるべき問題ではないかと感じた。