読書感想をぶちまける絶好の場、note
三島由紀夫「潮騒」
誰もが聞いたことのある三島由紀夫の代表作、「潮騒」
読んだことがある方も多いのではないでしょうか。
「三島由紀夫といえば「金閣寺」と「潮騒」だろう。何をいまさら読書感想なんか書くんだ、この若造が」
まぁまぁ。落ち着いてください。
読書感想
題名「潮騒」
とても良い題名ですよね。私は漢字二文字の題名の本が好きなのです。
今ざっと本棚を見ても、テッド・チャン「息吹」、三島由紀夫「音楽」がこちらを見返しています。この2冊しか見当たりませんでしたが。
歌島(うたじま)という情景
「潮騒」は歌島という小さな小島を舞台にしています。
退屈しない小説とは、往々にして情景が浮かび続けるものだと思います。三島由紀夫の文章によって私の五感すべてが研ぎ澄まされ、美しく懐かしい情景が浮かびました。
情景が浮かぶというのは言い換えると、文章によって五感を支配されるということでもあります。私は三島由紀夫の文章を前にしてあっさりと支配を受け入れたのですね。こうなってしまっては私はこの本の奴隷です。
夏目漱石「こころ」でも似たような経験がありました。
海沿いの町に生まれた私にとって港や海は身近な存在でした。そのため、「潮騒」という題の通り、浮かんできた潮の匂いや港の喧噪の情景は私の海馬に眠る古い記憶を呼び起こしたように思います。
若き男女の恋慕
この物語には、漁業で生計を立てる青年の新治と島一番の家の娘である初江の恋慕が描かれています。
新治の純粋さと男らしさには惚れますし、初江の心の強さと純粋さには心を打たれます。
そんな2人が描く純粋な恋慕の行方は、そんな経験とは程遠い青春時代を過ごした私にも圧倒的な読後感をもたらしてくれました。
なんと美しい作品なのか。
三島由紀夫の他作品との相違点
私はこれまで三島由紀夫の「音楽」「仮面の告白」「愛の渇き」「永すぎた春」を読みました。
特にはじめの3作は恋慕に対する異常なまでの執着や嫉妬が描かれており、その狂気性や特殊な性癖に関する分析が際立っています。
私は「音楽」の物語構成が好きでした。精神科医としての立場から女性心理を分析していき、女性の異常行動と性に対する執着の原体験を明らかにするという構成はまるで推理小説のように感じました。
しかしながら、「潮騒」は異常性のない純愛の物語。ただ若い男女の何も知らない恋慕が描かれていたという点でこれまでとは違う新鮮さを感じました。
これも、三島由紀夫の術中なのかもしれませんが。
ご都合主義的?
他作品と比較すると「潮騒」は物語がきれいにまとめられているため、若干のご都合主義さを感じました。異常な行動が物語に影響を及ぼすことがなく、若き男女の恋慕は島民に認められることによってハッピーエンドを迎えた。流れがあまりに美しすぎるのですね。
ときに、純粋な美しさは人を不安にさせる種になるのだとも思いました。
私には彼らの純粋さが眩しすぎる。
作中人物にどろどろとした異常性がなかったのは少し物足りなかったのです。どうやら、調べてみると「潮騒(1954年)」は「仮面の告白(1949年)」以降に書かれたらしいですね。「仮面の告白」では前半部で男色的な性癖について語られています。このことから、「潮騒」では敢えて作中人物の心理描写や分析を少なくし、純真さを描いたのかもしれません。現に私は新鮮な美しさを感じました。
総評
こうして私は三島由紀夫文学の奴隷となった。
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