あー、いい天気っすね
どこでいつ人の地雷を踏むか分からない。なるべく当たり障りのないものを、と思う。
ワクチンの一回目を終えた。幸いにも大きな副反応はなく、「エレルギーをとろう」と思って少し体重がリバウンドしたぐらいで済んだ。
今日の雑談はワクチンの話ばかりだった。といっても話し始めたのは僕なので当たり前なのだが。
僕以外の人はほとんどもう二回目まで終えていて、各々の副反応について教えてもらい安心したり緊張したりした。何も出なかったという人もいれば結構辛かったという人もいた。
僕も次回が怖くもあるが、こればかりは人によりけりなのでどうすることもできない。何も起きないことを、ただ願うだけだ。
さて、僕がそんな話をすることができたのは「みんなワクチンを打った」という事を知っていたからである。
つまり、彼らにとってワクチンの話題は、少なくとも大きな地雷でないことが分かっていたのだ。
もしこれが所謂反ワクチンの人に対してであれば、自分も相手も心地よくはないだろう。「当たり障りのない話」だと思っていても、それが本当にそうかどうかは、意外と分からないのかもしれない。
スポーツの話はどうだろう。「何かやってましたか?」とか、「オリンピック見てますか?」とか。
しかし、僕は「何かやってましたか?」と聞かれても何も答えられない。体格が変にいいせいで良く質問されるが、やってないものはやってないので仕方がない。地雷とまでは言わないが、すみませんという気持ちになる。
ただ、最近は「あー、ラグビーとかやってましたね」みたいな事を言ったりする。嘘ではないし、ルールも知ってるのでなんとかなる。何より、少し太り気味でも説得力が出るので「あー、なるほど、だからそんな体型なんですね」と、丸く収まるわけだ。
「オリンピック見てますか?」はどうだろう。こればかりは分からないが隣の彼が実は反五輪派であった場合は地獄かもしれない。
僕自身は別にそこまで強い思想を持って五輪を観ているわけではないし、純粋にスポーツの祭典を楽しみたいという気持ちなのだが、じゃあ五輪の問題を無視するのかと聞かれても困る。そんなに深い気持ちで聞いているつもりもないのにだ。
別に僕も彼を尊重するけど、お互いに気まずくなるくらいなら五輪の話なんかしないほうがマシだ。
趣味の話も難しい。「ドラマ観ますか?」と聞かれても僕は逃げ恥すら観てないし、逆にストレンジャーシングスを熱弁する気にもならない。
「好きなバンドとかって」この質問が一番怖い。互いに探り合っている段階では、「丁度いいバンド」を出すことが難しい。
「あー、そうっすね…。最近は…エヴァのサントラを聴いてます」
これはアウトである。
「えーっと、有名なところで言うとグリーンデイとか…」
これはだいぶ予防線を張っている。
「あー!グリーンデイね!聞いたことある!」
残念、これもアウト。
「えっと、他のジャンルだと、日向坂とか…」
「あー、アイドルかー、わかんないんだよねー」
はい。スリーアウトチェンジである。
そもそもそんな相手に音楽の話なんかしない方がいいのかもしれないが、逆に自分が質問する側になったとしても上手く返せる自信はない。
食べ物の話なら、と思うかもしれない。しかし、世の中にはラーメンもカレーも好きじゃない人もいる。食に興味がない人も少なからずいるのだ。
酒の話が嫌いな人もいるし、難しい話が嫌いな人もいる。
歴史の話、ガンダムの話、野球の話。中々それで盛り上がる人は少ない。ちなみに知り合いに一人、お互いに盛り上がることができる人はいる。しかしその人のプロレス話にはついていけない。難しいものだ。
だから今日も僕はよく知らない人には天気の話をする。
仲良くもなりたくない人の地雷を踏み抜くくらいなら、思ってなくても「暑いね」って言えばいい。
あと、喫煙者にはタバコの話をしとけばいい。